五箇山県立自然公園

五箇山県立自然公園（ごかやまけんりつしぜんこうえん）は、富山県南砺市に位置する県立自然公園です。総面積は3856ヘクタール、およそ38.56平方キロメートルに及びます。この公園は、世界遺産にも登録されている五箇山地域の代表的な景観を形作る合掌造り集落、とりわけ相倉（あいのくら）と菅沼（すがぬま）の両地区を核とし、それらを取り囲む里山や森林の自然環境を保護し、後世に伝えていくことを主要な目的に制定されました。

地理的特徴

公園の地理は多様性に富んでいます。森は広葉樹林が主体であり、四季折々の美しい表情を見せますが、特に秋には山々が一面に鮮やかな紅葉で彩られ、訪れる人々を魅了します。公園内には、高坪山（たかつぼやま）などの山岳があり、ハイキングや自然散策の機会を提供しています。また、中層湿原である小瀬湿原（おぜしつげん）のような貴重な湿地環境も含まれています。さらに、細尾峠（ほそおとうげ）、鹿熊峠（かぐまとうげ）、小瀬峠（おぜとうげ）といった複数の峠が古くからの交通路や景観の要素となっています。

豊かな生態系

五箇山県立自然公園の自然環境は、多様な動植物の生息地となっており、特に植物相が豊かです。園内には様々な種類の山野草が自生しており、季節ごとに異なる花々を楽しむことができます。特筆すべきは、希少な植物が多く確認されている点です。国のレッドリストや富山県のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種や準絶滅危惧種が、この地で確認されています。

主な希少植物

イワチドリ（岩千鳥）：国の絶滅危惧種Ⅰ類（CR+EN）に指定されている極めて貴重な植物です。かつて富山県では五箇山が唯一の自生地とされていました。昭和60年（1985年）に自生が新たに確認されましたが、その後の継続的な確認例がないことから、残念ながら乱獲などが原因で野生では絶滅した可能性が高い（野生絶滅扱い）と考えられています。
ナツエビネ（夏海老根）：国の絶滅危惧種Ⅱ類（VU）に分類されています。
サワラン（沢蘭）：富山県の絶滅危惧種Ⅰ類に指定されています。
ヤマシャクヤク（山芍薬）：国の準絶滅危惧種（NT）に指定されています。
サルメンエビネ（猿面海老根）：国の絶滅危惧種Ⅱ類（VU）に分類されています。
クマガイソウ（熊谷草）：国の絶滅危惧種Ⅱ類（VU）に分類されています。
* イチヨウラン（一葉蘭）：富山県の絶滅危惧種Ⅱ類に指定されています。

これらの植物が自生していることから、五箇山県立自然公園が維持する自然環境がいかに貴重であるかが分かります。これらの植物を守るための保全活動が重要視されています。

歴史と文化財

この公園は、単なる自然公園としてだけでなく、歴史的・文化的な価値も非常に高い地域です。公園の中心とも言えるのは、世界遺産にも登録されている相倉合掌造り集落と菅沼合掌造り集落です。これらの集落は、日本の山村における伝統的な生活様式と、豪雪地帯に適応した独特の建築技術を示す貴重な遺産です。集落内には、村上家住宅や岩瀬家住宅、羽馬家住宅など、かつての有力者の屋敷が残されており、当時の暮らしぶりや文化を今に伝えています。

また、特に注目すべき文化財として「流刑小屋（るけいごや）」があります。これは日本国内で唯一現存する流刑に処された人々を収容した小屋とされており、五箇山の歴史の一端、特に過去の厳しい側面を知る上で非常に重要な史跡です。

五箇山県立自然公園