五銭硬貨

五銭硬貨の歴史

五銭硬貨は、日本の貨幣制度において、1円の20分の1の価値を持つ補助貨幣として、明治初期から終戦直後まで様々な種類が発行されました。銀貨から始まり、白銅貨、ニッケル貨、そして戦時中の物資不足からアルミ貨や錫貨へと変遷を遂げました。その歴史は、日本の近代化と戦争の時代を映す鏡とも言えるでしょう。

五銭硬貨の種類

五銭硬貨は、その素材やデザイン、発行時期によって大きく12種類に分類できます。それぞれの硬貨には、当時の社会情勢や技術革新が反映されており、コレクターの間でも人気があります。

1. 旭日竜五銭銀貨 (1871年発行)

品位: 銀80%、銅20%
量目: 1.25g
直径: 15.151mm
特徴: 表面に竜図、裏面に菊花紋章と旭日をデザイン。明治初期に発行された銀貨で、製造技術が未熟だったため、竜の鱗が不明瞭なものが多い。希少価値が高い。

2. 旭日大字五銭銀貨 (1872年発行)

品位: 銀80%、銅20%
量目: 1.25g
直径: 15.151mm
特徴: 前述の旭日竜五銭銀貨の製造が困難であったため、竜図を廃止し、額面金額である「五錢」の文字がデザインされた。周囲のギザも廃止。

3. 竜五銭銀貨 (1873年発行)

品位: 銀80%、銅20%
量目: 1.348g
直径: 15.151mm
特徴: 表面に再び竜図が復活。国際化を意識し、表面に「5SEN」とローマ字表記が入った。直径が小さく不評で、製造期間が短かった。

4. 菊五銭白銅貨 (1889年発行)

品位: 銅75%、ニッケル25%
量目: 4.665g
直径: 20.606mm
特徴: 日本初の白銅貨。五銭銀貨の小ささを改善するために、大きくなり、流通に適したサイズになった。しかし、デザインがシンプルだったため、偽造貨幣が大量に出回る。

5. 稲五銭白銅貨 (1897年発行)

品位: 銅75%、ニッケル25%
量目: 4.665g
直径: 20.606mm
特徴: 菊五銭白銅貨の偽造対策として、デザインを複雑化。稲穂をデザインに取り入れた。菊五銭白銅貨と比較すると希少価値が高い。

6. 大型五銭白銅貨 (1917年発行)

品位: 銅75%、ニッケル25%
量目: 4.275g
直径: 20.606mm
孔径: 4.20mm
特徴: 初めて有孔式（穴あき）のデザインを採用。偽造防止のため、裏面に青海波のデザインを施した。アラビア数字とローマ字の「5SEN」の表記を廃止。

7. 小型五銭白銅貨 (1920年発行)

品位: 銅75%、ニッケル25%
量目: 2.625g
直径: 19.091mm
孔径: 3.90mm
特徴: 大型五銭白銅貨を小型化。デザインはほぼそのまま。製造が中断された後、満州事変の影響で需要が増加し、再開された。

8. 五銭ニッケル貨 (1933年発行)

品位: 純ニッケル
量目: 2.8g
直径: 19mm
孔径: 5mm
特徴: ニッケルを素材とした貨幣。満州事変の影響で軍事物資として必要なニッケルの備蓄の意味合いもあった。デザインは一般公募。

9. 五銭アルミ青銅貨 (1938年発行)

品位: 銅95%、アルミニウム5%
量目: 2.8g
直径: 19mm
孔径: 4mm
特徴: 日中戦争の影響でニッケルが軍需物資として不足したため、アルミ青銅を素材とした。デザインは一般公募。

10. 五銭アルミ貨 (1940年発行)

品位: 純アルミニウム
量目: 1.2g→1g→0.8g (時期により変動)
直径: 19mm
特徴: 第二次世界大戦の影響で銅が不足したため、アルミニウムを素材とした。戦況の悪化とともに重量が削減された。

11. 穴あき五銭錫貨 (1944年発行)

品位: 錫93%、亜鉛7%
量目: 1.95g
直径: 17mm
孔径: 4mm
特徴: 戦況悪化によりアルミすら不足し、東南アジアで産出された錫を使用した。素材が柔らかく、長期間の使用には不向きであった。

12. 鳩五銭錫貨 (1945年発行)

品位: 錫93%、亜鉛7%
量目: 2g
直径: 17mm
* 特徴: 終戦後、GHQの承認を得て発行。国名表記が「大日本」から「日本政府」に変更された。手持ちの資材が枯渇し、翌年製造中止。

未発行貨幣・試鋳貨幣

上記以外にも、試作品や未発行に終わった五銭硬貨が多数存在します。これらは、技術的な問題や社会情勢の変化、デザインの変更など、様々な理由で発行に至りませんでした。

五銭硬貨の終焉

終戦後、インフレーションが進み、五銭硬貨の価値は大きく低下しました。1953年の小額通貨整理法により、五銭硬貨を含む銭単位の硬貨はすべて通用停止となり、その歴史に幕を閉じました。

古銭としての価値

五銭硬貨は、発行枚数や保存状態によって、現在では古銭として価値が異なります。特に、発行枚数が少ないものや、状態の良いものは高値で取引されることがあります。これらの硬貨は、単なる貨幣としてだけでなく、日本の歴史を物語る貴重な資料としても価値があると言えるでしょう。

これらの五銭硬貨は、日本の貨幣史において、様々な社会情勢や技術革新を反映した、非常に興味深い存在です。

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