井上和男

井上和男：映画監督、脚本家、そして小津安二郎研究の先駆者

井上和男（1924年12月27日 - 2011年6月26日）は、神奈川県小田原市出身の映画監督であり、脚本家、舞台演出家としても多岐にわたり活躍しました。彼の足跡は、映画史における重要な貢献として高く評価されています。

生い立ちと映画界への道

小田原で青春時代を過ごした井上は、早稲田大学商学部在学中に劇団「こゆるぎ座」を創立し、劇作家としての道を志しました。大学卒業後、松竹大船撮影所脚本部に入り、新藤兼人に師事。助監督試験を経て、渋谷実、川島雄三、そして小津安二郎といった巨匠たちの作品で助監督を務め、映画制作の基礎を築きました。特に、小津安二郎の『東京物語』に参加した経験は、彼の映画観に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

映画監督としての才能開花

1955年、京都映画で監督デビューを果たし、1958年には松竹大船の監督に昇進。桑野みゆきの初主演作『野を駆ける少女』で本格的に監督としてのキャリアをスタートさせました。1960年には、航空自衛隊の協力を得て制作した『予科練物語・紺碧の空遠く』が話題を呼びましたが、内容を巡り国会で論争を巻き起こすなど、社会的な注目を集めました。

『水溜り』『熱愛者』などの作品では、馬場当と共に「松竹ヌーヴェルバーグ」の先駆けとして評価され、倍賞千恵子と渥美清の初共演を実現するなど、新たな才能の発掘にも貢献しました。

フリーランスとしての挑戦

1964年に松竹を離れてフリーとなると、東宝・ワーナー・ブラザース合作映画『勇者のみ』の日本側監督を務めました。その後も、東京映画で喜劇映画を手がけるなど、幅広いジャンルに挑戦。1968年には、日本万国博覧会の大阪ガスパビリオン映像監督を務めるなど、その活動は多岐にわたりました。

小津安二郎研究への情熱

1971年に映像制作会社「蛮友社」を設立してからは、小津安二郎研究に力を注ぎました。1972年には『小津安二郎・人と仕事』を出版し、没後20年の1983年には、ドキュメンタリー映画『生きてはみたけれど・小津安二郎伝』の脚本・監督を手がけました。長年にわたる小津作品の研究と著作活動は、国内外における小津作品研究の重要な礎となっています。

多彩な活動と晩年

映画監督としての活動以外にも、テレビドラマの演出や、舞台の脚本・演出も手がけました。晩年は、小林旭監督の『春来る鬼』（1989年）の製作に関わるなど、後進の育成にも尽力しました。2011年6月26日、肺気腫のため86歳で逝去。

井上和男は、映画監督としてだけでなく、小津安二郎研究の第一人者として、日本の映画史に大きな足跡を残しました。彼の作品と研究は、これからも多くの人々に影響を与え続けることでしょう。

代表作品

父と子と母と（1956年）
野を駈ける少女（1958年）
水溜り（1961年）
熱愛者（1961年）
生きてはみたけれど 小津安二郎物語（1983年）

参考文献

『小津安二郎・人と仕事』
『小津安二郎作品集』
『陽のあたる家　小津安二郎とともに』

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