井上和雄 (時計職人)

井上和雄

井上和雄氏（1929年10月 - ）は、日本の著名な時計職人です。彼の名前は、札幌のシンボルである札幌時計台の長年にわたる保守と密接に結びついています。父である井上清氏もまた時計職人であり、昭和初期から時計台の保守を無償で行っていました。和雄氏は、戦後間もない頃から父と共に時計台の保守に携わり、親子二代で70年以上にわたり、その歴史を支え続けてきました。

生い立ちと初期の経歴

1929年（昭和4年）10月、井上和雄氏は札幌市で生を受けました。時計店を営む家庭環境は、彼に自然と時計の技術を習得させました。学校の教員からも「将来は時計台を守るんだ」と期待を寄せられていましたが、少年時代の彼は時計よりも飛行機に強い興味を持っていました。模型飛行機に熱中し、その趣味が高じて1944年（昭和19年）には少年工として日立航空機羽田工場に就職、海軍飛行予科練習生の練習機製造に携わりました。

時計職人としての道

戦後、飛行機の仕事がなくなったため、1947年（昭和22年）、18歳の時に父への反発心を持ちつつも、父と同じ時計職人の道を選びました。札幌工業高等学校に通いながら、父と共に時計台の保守を始めました。父・清氏は厳格な人物であり、親子であると同時に師弟でもあった彼らの関係は複雑でした。時には厳しく指導されることもありましたが、和雄氏は父の技術を高く評価し、仕事においては反発することはありませんでした。地震などの緊急時には、夜中でも時計台に駆けつけました。多忙な日々の中で、泊りがけの旅行は新婚旅行の一度きりだったといいます。

時計台の保守を引き継ぐ

1981年（昭和56年）、父・清氏が現役を引退し、和雄氏が50年にわたる時計台の保守を引き継ぎました。1995年（平成7年）には時計店を閉め、札幌市の外郭団体の嘱託職員となりました。翌1996年（平成8年）9月、清氏が亡くなりました。その日は偶然にも時計台の保守の日であり、市役所から休むように言われたにもかかわらず、彼は自然と時計台へと向かいました。葬儀の日も「父が喜ぶから」と、時計台の仕事を優先しました。

さらなる功績と引退

1997年（平成9年）8月、21年ぶりに行われた時計の解体点検では、初めてすべての作業を自身で指揮しました。1998年（平成10年）からは、管理運営団体である「社団法人札幌市友会」の嘱託職員として保守・整備を続けました。同年10月には、北海道文化財保護功労者として表彰され、親子二代にわたる受賞となりました。

2008年（平成20年）、時計台が創建130周年を迎えた記念式典では、親子二代にわたる保守整備への貢献が評価され、札幌市長特別表彰が贈られました。生涯現役を誓っていましたが、腰を痛めて梯子の昇降が困難になったため、2014年（平成26年）3月に引退しました。引退後、札幌市から委託された時計機械保存会のメンバーが、井上氏から直接指導を受け、その技術と精神は次世代へと引き継がれています。

井上和雄氏の時計台に対する情熱と技術は、札幌の貴重な文化遺産を守り続ける上で欠かせないものであり、その功績は永く語り継がれることでしょう。

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