井上哲次郎

井上哲次郎

井上哲次郎（いのうえ てつじろう、1856年2月1日 – 1944年12月7日）は、明治時代に活躍した日本の哲学者かつ詩人であり、号は巽軒（そんけん）で、通称「井の哲（イノテツ）」で知られる。彼は西洋哲学を日本に紹介し、東京大学で初めての哲学教授となっただけでなく、東洋哲学の研究にも貢献し、保守派・体制派のイデオローグとしての役割も果たしました。

生い立ちと教育

井上は、福岡県太宰府市に医師の三男として生まれ、幼少期に地元の儒学者から四書五経を学びました。明治元年に博多に出て英語を学び、1871年には長崎の英塾広運館に入学。その後、1875年には東京開成学校に進学し、1877年には東京大学に入学しました。大学では哲学と政治学を専攻し、フェノロサや中村正直らに学び、1880年に卒業しました。

学問の道

卒業後、文部省に就職し、「東洋哲学史」の編纂に取り組む一方、1882年には東京大学の助教授となり、外山正一、矢田部良吉と共に『新体詩抄』を刊行しました。1884年にはドイツに留学し、ハイデルベルク大学やライプツィヒ大学で学び、1890年に帰国後は帝国大学文学部の哲学科教授に就任しました。彼はさらに1898年に東京帝国大学文科大学学長に就任し、1923年までその地位にありました。

政治と思想

井上は国家主義の立場を貫き、宗教に対する国家の優越性を主張しました。特に内村鑑三との論争では、キリスト教を批判する姿勢を見せました。また、戦陣訓に関与し、体制派の思想界において道徳主義を支持する役割を担いました。しかし、国民道徳の限界を感じ、より広い世界道徳を提唱するようになり、教育勅語との矛盾を解消しようと試みました。

詩業

井上は詩人としても知られ、特に『孝女白菊詩』という漢詩が有名です。この詩は、父を慕う孝女の気持ちを描写したもので、1880年から1881年にかけて書かれました。この作品は、落合直文などにも影響を与え、全国的に感動を呼びました。さらに、彼は新体詩運動の先導者の一人とも目され、その活動が日本の文学において大きな影響を与えました。

私生活

井上の家族には、長女が教育学者の吉田熊次と結婚し、二女は日本画家の押田翠雨となりました。彼自身は1944年に没し、彼の自宅は戦争で焼失しましたが、現在もその土蔵は史跡として残っています。

遺産

井上哲次郎の業績は多岐にわたり、西洋哲学の精髄を日本に紹介したことは特筆すべきことであり、彼の詩作や教育商法は今なお価値あるものとされています。著作も多く、彼の編纂した「哲学字彙」は特に学術界において貴重な資産となりました。彼の思想や作品は、現代においても研究の対象であり続けています。

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