井上孝 (都市計画家)

井上孝（いのうえ たかし）は、1917年にアメリカで生まれ、日本の都市計画分野に多大な貢献をした人物です。都市計画家、技術者、都市工学者、都市研究者、そして建設官僚という多様な顔を持ち、東京大学名誉教授としても後進の育成に尽力しました。彼の業績は、日本の都市計画の発展に欠かせないものとなっています。

生い立ちと学歴

1917年、アメリカ合衆国ニュージャージー州で生まれた井上は、幼少期をアメリカで過ごしました。父親の仕事の関係で、三井物産ニューヨーク支店に勤務していたことが、その背景にあります。その後、日本に帰国し、東京府立第一中学校（現在の東京都立日比谷高等学校）を経て、第一高等学校に進学しました。この時期に矢内原忠雄の聖書講習会に参加し、無教会派のクリスチャンとなったことは、彼の思想形成に大きな影響を与えたと考えられます。一高卒業後は、東京帝国大学（現東京大学）工学部土木工学科に進み、都市計画を榧木寛之に師事しました。1942年に卒業後、海軍技術士官として大湊海軍施設部に所属し、樺太や千島列島の海軍基地防衛計画や中標津空港などの施設計画に携わりました。

戦後の活動と都市計画への貢献

戦後、井上は東京都建設局都市計画課に転属し、石川栄耀から実務指導を受けました。その後、首都圏建設委員会事務局に勤務し、1953年からは1年間イギリスに留学し、ロンドン大学でウィリアム・ホルフォードに師事しました。帰国後の1954年からは、首都圏整備委員会事務局調整官補佐として、首都圏の整備計画に携わりました。その後、建設省計画局区画整理課・都市計画課建設専門官、1961年には首都高速道路公団技術部計画課長を歴任し、1962年に建設省都市局区画整理課長に就任しました。ここでは土地区画整理事業の国費補助率増大を実現し、都市計画の発展に大きく貢献しました。

また、同年には東京大学工学部に新設された都市工学科教授に就任し、研究者、教育者としてのキャリアをスタートさせました。1965年には国際住宅都市計画連合（IFHP）の国際会議東京大会誘致を実現し、国際的な活動にも力を注ぎました。1978年から1983年までは横浜国立大学に在職し、1983年からは建設コンサルタントの財団法人計量計画研究所理事長を務めました。

主な実績

井上の主な実践としては、以下のプロジェクトが挙げられます。

千葉県開発庁・海浜ニュータウン計画・基本設計（1967年-1970年）
千葉市・稲毛海浜ニュータウン基本設計（1970年、宅地開発研究所と共同）
千葉県開発庁・海浜ニュータウン幕張地区計画（1973年）
長崎県防災都市構想策定（1983年-1984年、中島川の治水対策と眼鏡橋など石橋群の現地保存構想を含む）

これらのプロジェクトを通じて、井上は都市計画の理論と実践の両面で優れた能力を発揮しました。特に、長崎県防災都市構想では、歴史的な景観と防災機能を両立させるという、当時としては画期的な取り組みを行いました。

受賞と晩年

1988年には、長年の功績が認められ、勲二等瑞宝章を受章しました。2001年2月21日、胃潰瘍による大量出血のため、83歳でその生涯を閉じました。

井上孝は、日本の都市計画の発展に大きく貢献した人物であり、その業績は今もなお、都市計画分野に携わる人々に大きな影響を与え続けています。

参考文献

井上孝『都市計画の回顧と展望』1989年
井上孝『都市計画を担う君たちへ』2002年
井上孝、八十島義之助編『都市交通講座5　交通計画の実際』1971年
高橋裕『現代日本土木史』彰国社、1990年

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