矢内原忠雄

矢内原忠雄（やないはら ただお）

概要

矢内原忠雄は1893年に生まれ、1971年に亡くなった日本の著名な経済学者および植民政策学者です。彼は、東京大学の総長を務め、日本学士院の会員としても知られています。また、無教会主義キリスト教の指導者としても名を馳せました。彼の学問と理念は、日本の戦後民主主義を形成する重要な要素となり、現在でも影響を与え続けています。

生い立ちと教育

矢内原は愛媛県の富田村で医者の子として誕生し、教育熱心な父の影響を受けました。神戸の中学校を経て1910年には旧制第一高等学校に進学。この頃、無教会主義者の内村鑑三の影響を受けてキリスト教に興味を持つようになります。東京大学に入学後は、吉野作造や新渡戸稲造の思想から深い影響を受けながら経済学の研究に邁進しました。

壮年期の活躍

1917年に東京帝国大学政治学科を卒業後、住友総本店に勤務しながら家庭も築きました。この間、彼は植民政策学に傾倒し、その後母校に戻って助教授に任命されました。特に1929年に発表した『帝国主義下の台湾』は、彼の研究の集大成と言え、国際的に高く評価されました。彼は植民政策を単なる統治者の視点からだけでなく、社会現象として分析し、その重要性を広く伝えました。

矢内原事件

1937年、矢内原は『中央公論』誌に「国家の理想」という評論を寄稿します。この中で、正義を国家の理想とし、国民が国家を批判する権利があると論じました。しかし、これが背信者扱いされ、彼は大学から追放されることとなります。この事件は、日本の知識人や学生運動に多大な影響を与え、彼の姿勢は多くの支持を集めることとなりました。

戦後の活動

戦後、矢内原は東京大学に復職し、経済学部長や教養学部長を歴任します。そして、1951年から1957年までの間、東京大学総長を務め、学問の自由を守るために尽力しました。また、学生運動に対して厳しい態度を示し、自身の理念に基づいた「矢内原三原則」を提唱しました。

晩年と死

矢内原は引退後も精力的に講演活動を続け、自らの信仰に基づく平和主義を説きました。1961年、彼は胃がんにより入院し、同年12月25日に亡くなります。その死は、多くの人々にとって大きな衝撃でした。

影響と著作

矢内原は多くの著作を残し、その中には『基督者の信仰』や『植民政策』などがあります。彼の著作は日本の民主主義や平和主義に大きな影響を与え、今もなお研究・議論の対象となっています。

家族

矢内原には、哲学者で法政大学名誉教授の矢内原伊作、経済学者で慶應義塾大学名誉教授の矢内原勝という二人の息子がいます。彼らはそれぞれ存命であり、父の影響を受けた知識人として活躍しています。

矢内原の人生は、彼自身の信仰と学問を通じて、日本社会における重大な課題に取り組む姿勢を示しています。彼の精神は、現在でも多くの人々に引き継がれています。

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