井上尚弥 対 ポール・バトラー戦

井上尚弥 vs ポール・バトラー 4団体王座統一戦：歴史的勝利の全貌

2022年12月13日、東京・有明アリーナは、ボクシング史に新たな金字塔が打ち立てられた瞬間を目撃しました。WBAスーパー・WBC・IBF世界バンタム級王者の井上尚弥が、WBO世界同級王者ポール・バトラーを迎え撃ち、バンタム級初の4団体王座統一を達成した「NTTドコモ Presents PXB WORLD SPIRITS WBA・WBC・IBF・WBO 世界バンタム級王座統一戦 井上尚弥 vs ポール・バトラー」は、まさに Undisputed（議論の余地なし）な試合として、ボクシングファンの記憶に深く刻まれました。

試合成立までの道のり

井上尚弥は、この歴史的な一戦に向けて万全の準備を整えました。2022年9月には、弟の井上拓真、従兄弟の井上浩樹とともに、フレディ・ローチ氏が設立したアメリカ・ロサンゼルスのワイルドカードジムで合宿を敢行。WBAスーパーバンタム級1位のアザト・ホバニシャン、WBCフェザー級11位のアダム・ロペスら、世界トップレベルの選手たちを相手に、計29ラウンドのスパーリングを行いました。この過酷なトレーニングは、井上の技術と精神力をさらに高めることとなりました。

2022年10月13日、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズで会見が開かれ、12月13日に有明アリーナで4団体王座統一戦を行うことが正式発表されました。試合に向けて、バトラーは12月6日に来日しましたが、英国国内便の遅延により乗り継ぎに失敗し、予定より1日遅れての到着となりました。

試合前のオッズでは、井上の勝利が圧倒的に有利と見られていました。英国最大のブックメーカー・ウィリアムヒルでは、井上の勝利に1.02倍、バトラーには15倍という大差がつけられました。井上のKOラウンド予想は、1～3回が1.5倍、4～6回が3.75倍と、早期決着を予想する声が多く聞かれました。

緊迫の計量、そして決戦のゴング

2022年12月12日、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズで計量が行われ、井上が53.45kg、バトラーが53.50kgで共にバンタム級リミットをクリアしました。しかし、直前にデジタル体重計が導入された影響で、井上は最初の計量で30gオーバー。5分後の再計量で50gアンダーとなり、辛くもパスしました。

試合で使用するグローブは、井上が黒のレイジェス、バトラーが白のRDXに決定。リングアナウンサーは、ジミー・レノン・ジュニアが務めることとなりました。レフェリーはベンス・コバックス（ハンガリー:WBO）、ジャッジはロナルド・マクネイル（アメリカ:4団体）、イグナシオ・ロブレス（パナマ:WBA）、フェルナンド・バルボサ（アメリカ:4団体）の3名が担当し、採点の途中公開は行われないことが決定しました。

激闘の末、井上が歴史を塗り替える

2022年12月13日、ついに運命のゴングが鳴りました。試合は、予想通りの展開となりました。バトラーは、終始ガードを固めながらサークリングやバックステップを駆使し、徹底的に守りを固めます。一方の井上は、ノーガードや両腕を背中に回すなど、相手を挑発する場面を交えながら、果敢に攻め続けました。

そして、迎えた11ラウンド。井上の猛攻が、ついにバトラーを捉えます。右ボディから左右の連打を浴びせ、バトラーをマットに沈め、見事KO勝利を収めました。この瞬間、井上はWBO王座を新たに獲得するとともに、WBA王座の8度目、WBC王座の1度目、IBF王座の6度目の防衛に成功。ボクシング史上9人目、バンタム級及びアジア人として初の4団体統一王者という偉業を達成したのです。試合後、リング上で行われたインタビューで、井上はスーパーバンタム級への転向を宣言し、さらなる高みを目指すことを明らかにしました。

試合後のコメント

井上尚弥

「久々に11ラウンドの戦いで、攻撃中心だったこともあり疲れた。戦い方は予想通りだったが、想像以上にタフだった。（ノーガードになどの挑発について）苛立っていたわけじゃないけど、倒されなければいいのか、倒しに日本に来てるんじゃないのか、ほんとに勝つ気があるのかと。そういう思いがあった。11ラウンドにしっかりギアを入れて倒し切れた。それが収穫。」

ポール・バトラー

「井上はパンチが強くて正確だった。スピードもあった。ガードが甘くなったところを突こうと思っていて、それができたところもあったが、思っていたほどチャンスはなかった。守りを固めるのではなく、臆病だと思われたくないので、積極的に攻めていこうと思ったが、結果的にダウンしてしまった。（井上のディフェンスについて）井上は攻撃力と打たれ強さがあるがゆえにディフェンスが後回しになっている可能性がある。スーパーバンタム級に上げても失敗はしないかも知れないが、その点が厳しくなると思うので、考えなくてはならないことが増えると思う。」

試合を巡る様々な出来事

この試合における井上のファイトマネーは、ネット有料配信の視聴者数から算出されるインセンティブを除いた最低保証額が約3億円、バトラーは約90万ドル（約１億2150万円）となりました。

試合の模様は、日本国内ではdTVによる有料会員向けへの独占配信となりましたが、井上の試合直前に想定以上のアクセスが集中しエラーが発生したため、急遽会員登録なしの無料配信へと切り替えられました。

この歴史的な一戦は、数々のドラマと感動を呼び、ボクシングファンのみならず、多くの人々の心に深く刻まれました。

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