井上貞治郎

井上貞治郎

井上貞治郎（いのうえ ていじろう、1881年8月16日 - 1963年11月10日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家であり、「日本の段ボールの父」と称されています。彼は、段ボールの実用新案を取得し、その大量生産と強固な段ボール箱の開発を成し遂げ、現在のレンゴー株式会社を設立しました。

生い立ちと青年期

井上貞治郎は、1881年（明治14年）に兵庫県姫路市郊外で、農業を営む長谷川家の三男として生を受けました。2歳の時に、兵役を逃れるために遠縁にあたる井上家の死籍相続人となります。高等小学校を卒業後、1895年から神戸の商家で丁稚奉公を始め、その後、中国料理店、パン屋、石炭屋など様々な職を転々としました。1905年には、妻と別れ、単身で満州へと渡ります。

起業と段ボール事業

1909年、放浪生活から立ち直った井上は、東京で「三盛舎」を創業しました。その後「三成社」と改名し、国産ダンボール紙の技術開発に取り組み、その完成に成功しました。1920年には、この技術を基盤として、聨合紙器株式会社（現在のレンゴー株式会社）を設立し、段ボールの大量生産と普及に大きく貢献しました。

経営哲学「きんとま」

井上貞治郎は、自身の哲学として「きんとま」という独自の概念を掲げていました。「きん」はお金と金のように固い意志、「と」は接続詞の「と（and）」、「ま」は「真心」の「ま」と「時間」の「間」を意味しています。この4つの要素を大切にすることを説き、この哲学はレンゴーの理念として今も受け継がれています。

晩年とメディア展開

レンゴー創業50周年を迎えた1959年には、自叙伝『生涯の一本杉』を出版し、日本経済新聞に「私の履歴書」を執筆しました。この自叙伝は、波乱に満ちた井上の人生を描き出し、多くの読者を魅了しました。その人気を受けて、朝日放送は自叙伝を基にしたテレビドラマ『流転』を放送し、高視聴率を記録しました。さらに、翌年には石浜恒夫による小説版『流転』が発刊され、舞台化や松竹による実写映画化もされました。1962年からは、毎日放送が『きんとま一代』シリーズ（森繁久彌主演のテレビドラマ3部作）を放送するなど、「流転ブーム」が巻き起こりました。

井上貞治郎は、このブームの最中の1963年に、82歳で生涯を閉じました。

参考文献

『私の履歴書 昭和の経営者群像①』 日本経済新聞社 1992年 31-85頁
「段ボールを考案した起業家、井上貞治郎」 上山明博（『飛翔』富士通，1996年7月20日）

関連項目

石浜恒夫
未来創造堂（日本テレビで放送されていたテレビ番組、2006年11月25日放送分で井上のエピソードをドラマ化）

外部リンク

井上 貞治郎：作家別作品リスト - 青空文庫
レンゴーの歴史 | レンゴー株式会社
「私の履歴書」井上 貞治郎 | レンゴーの歴史 | レンゴー株式会社
創業者 井上貞治郎の経営哲学「きんとま」哲学 | レンゴーの歴史 | レンゴー株式会社
* レンゴー]『[レンゴー株式会社八十年史 : 1909-1989』(1995.04) | 渋沢社史データベース

もう一度検索