井口洋

井口洋：近世文学研究の第一人者

井口洋氏は、1942年和歌山市に生まれ、2023年2月26日、急性心臓死のため80歳で逝去されました。日本の近世文学研究に多大な貢献を果たした、奈良女子大学名誉教授です。

和歌山市立本町小学校、同伏虎中学校、和歌山県立桐蔭高等学校を経て、京都大学文学部国文科に進学。1965年に卒業後、同大学院文学研究科博士課程に進み、1971年に満期退学しました。1996年には、「西鶴試論」で京都大学より文学博士の学位を取得しています。

大学院修了後は、帝塚山短期大学講師を経て、奈良女子大学に助教授として着任。その後、教授、副学長と要職を歴任し、2006年に定年退官、名誉教授となりました。

井口洋氏の研究分野は、主に近世文学、とりわけ近松門左衛門の浄瑠璃や、西鶴の作品に焦点を当てています。近松の世話浄瑠璃を深く掘り下げた『近松世話浄瑠璃論』（和泉書院、1986年）や、西鶴研究の集大成ともいえる『西鶴試論』（和泉書院、1991年）は、その代表的な著作です。これらの著作は、近世文学研究における重要な成果として高く評価されています。

学術論文の執筆にとどまらず、古典籍の校訂にも積極的に関わりました。例えば、秦石田著『播州名所巡覧図絵』（柳原書店、1974年）、秋里籬島『都林泉名勝図会』（柳原書店、1975年）といった古典籍の校訂を通して、貴重な文化遺産の保存と継承に貢献しています。また、『上方巷談集』（上方芸文叢刊刊行会、1982年）、『新日本古典文学大系 近松浄瑠璃集』（岩波書店、1995年）といった共同校注にも参加し、幅広い研究活動を行っていました。

井口洋氏の研究は、綿密な史料考証に基づいた緻密な分析と、鋭い洞察に裏打ちされた独自の解釈によって特徴づけられます。近世文学研究において、新たな視点を提示し、その発展に大きく貢献したことは間違いありません。その功績は、多くの研究者や学生に大きな影響を与え、日本の近世文学研究の進展に寄与しました。

2023年2月26日の逝去は、日本の学界に大きな損失をもたらしました。しかし、彼の残した著作と研究業績は、これからも多くの研究者たちに学びと刺激を与え続けることでしょう。謹んでご冥福をお祈りいたします。

主な業績

『近松世話浄瑠璃論』和泉書院 1986
『西鶴試論』和泉書院 1991
秦石田著 中井藍江画『播州名所巡覧図絵』校訂：柳原書店 1974
秋里籬島『都林泉名勝図会』校訂 柳原書店 1975
『上方巷談集』松原秀江、多治比郁夫、大橋正叔編 上方芸文叢刊刊行会 1982
『新日本古典文学大系 近松浄瑠璃集』原道生、松崎仁、大橋正叔共校注 岩波書店 1995

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