松崎仁

近世演劇研究者 松崎仁氏の生涯と業績

松崎仁氏は、近世日本の演劇研究において卓越した功績を残した研究者です。1923年（大正12年）3月14日、神奈川県横浜市に生まれました。父は長野県士族出身の官僚、母は横浜の貿易商の娘という環境で育ちました。

1949年、東京帝国大学文学部国文学科を卒業。その後は、学習院中等科・高等科で教諭を務めました。1957年には清泉女子大学助教授に就任し、1959年には立教大学文学部助教授に転じ、後に教授に昇進しました。立教大学では長年にわたり教鞭をとり、多くの学生を指導しました。1989年には立教大学を定年退職し名誉教授となりましたが、その後も梅光女学院大学教授として研究と教育活動を続け、1998年に同大学を退職、名誉教授となりました。

松崎氏の研究は、近世日本の演劇、特に歌舞伎と浄瑠璃に焦点を当てていました。その深い知識と洞察に富んだ分析は、多くの研究者や演劇愛好家に大きな影響を与えました。数々の著書や論文を発表し、近世演劇研究の進歩に大きく貢献しました。

主な著書として、『元禄演劇研究』（東京大学出版会、1979年）、『歌舞伎・浄瑠璃・ことば』（八木書店、1994年）、『舞台の光と影 近世演劇新攷』（森話社、2004年）などがあります。『元禄演劇研究』では、元禄時代の演劇を多角的に分析し、当時の社会状況との関連性も明らかにしました。『歌舞伎・浄瑠璃・ことば』では、歌舞伎と浄瑠璃の言葉遣いを詳細に分析することで、当時の演劇表現の独自性を浮き彫りにしました。『舞台の光と影 近世演劇新攷』では、近世演劇の様々な側面を多角的に考察し、新たな視点を提示しました。これらの著作は、現在でも近世演劇研究において重要な参考文献として広く活用されています。

共編著にも数多く携わっており、『シンポジウム日本文学 7 近松』（司会、学生社、1976年）、『年表資料近世文学史』（白石悌三、谷脇理史共編、笠間書院、1977年）、『西鶴と近松 おなつ清十郎・おさん茂兵衛』（白石悌三共編、和泉書院、1982年）、『俊寛 平家・謡曲・浄瑠璃』（景山正隆共編、新典社、1985年）などがあります。これらの著作を通して、近世文学や演劇に関する多様な研究成果を世に送り出しました。

また、古典作品の校注や翻訳にも力を注ぎ、『雨月・春雨物語』（上田秋成、ポプラ社、古典文学全集、1966年）、『西鶴名作物語 若い人への古典案内』（社会思想社、現代教養文庫、1971年）、『五大力恋緘』（並木五瓶、全注、講談社学術文庫、1982年）、『歌舞伎オン・ステージ 夏祭浪花鑑・伊勢音頭恋寝刃』（編著、白水社、1987年）、『新日本古典文学大系 近松浄瑠璃集』（岩波書店、1993-1995年）など、多くの古典作品を現代の読者にも理解しやすい形に編集・翻訳しました。

1995年には、「歌舞伎・浄瑠璃・ことば」により九州大学より博士（文学）の学位を取得し、日本演劇学会河竹賞を受賞しました。これは、氏の研究業績が高く評価された証であり、近世演劇研究における氏の貢献が広く認められたことを示しています。

2013年（平成25年）2月26日、永眠されました。松崎氏の死は、近世演劇研究界に大きな損失をもたらしましたが、氏の残した著作や研究成果は、これからも多くの研究者や演劇愛好家によって受け継がれ、日本の演劇史研究の発展に貢献し続けることでしょう。

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