井尻愛紗

井尻 愛紗

国際的な舞台で活躍する日本人ピアニスト、井尻愛紗（いじり あいさ）氏は、その優れた演奏と多岐にわたる活動で世界的な評価を得ています。現在ロンドンを拠点に活動しており、特に若い世代の音楽家としては非常に特筆すべき経歴を築いています。2010年には、スタインウェイ・アンド・サンズ社より史上最年少の日本人としてスタインウェイ・アーティストに認定され、2014年には欧州委員会から英国を代表するアーティストの一人として推薦され、欧州コンサートツアーを成功させました。さらに、2018年には権威ある英国王立音楽大学の日本人名誉代表に任命されており、国際的な音楽界におけるその存在感は揺るぎないものとなっています。

人物と教育背景

1981年4月20日、京都市に生まれた井尻氏は、幼い頃から非凡な才能を示しました。競泳、陸上競技（100m・200m）、フィギュアスケート、スキーといったスポーツに加え、絵画や書道、エッセイなど芸術・文筆分野でも頭角を現し、陸上競技選手権大会での優勝、ピアノコンクール全国大会への出場、絵画や書道での知事賞受賞など、数々の栄誉に輝きました。多方面での活躍を経て、最終的にピアノの道を究めることを選びます。10代で単身ヨーロッパへ渡り、本格的な研鑽を積みました。2004年には日本人として初めてスウェーデン政府からの全額奨学金を得てストックホルム王立音楽大学を卒業。その後英国に渡り、2005年にギルドホール音楽演劇学校にて上級演奏科の修士号を、2007年には英国王立音楽大学で国家演奏家資格にあたるアーティスト・ディプロマを、それぞれ取得しました。英国王立音楽大学では、卒業時に最高位の評価を得るなど、その卓越した才能と努力は高く評価されています。2009年には、その功績が認められ滋賀県文化奨励賞を受賞しています。

演奏活動と国際的な評価

井尻氏の音楽キャリアは、わずか7歳で京都府民ホール・アルティのピアノコンサートシリーズに最年少で招かれ、ベートーヴェンのピアノソナタを披露したことに始まります。以来、国内外の主要な国際ピアノコンクールで優勝や入賞を果たし、14歳でポーランドのワルシャワ・フィルハーモニック・コンサートホールにてカペラ・クラコヴィエンシスとピアノ協奏曲を共演しました。陸上競技からピアノへ専念することを決めた15歳の時、ストックホルムのコンサートハウスでのリサイタルでヨーロッパデビューを飾り、国際的な活動の礎を築きました。

これまでに、ロンドンのウィグモア・ホール、ニューヨークのカーネギー・ホールといった世界最高峰のコンサートホールをはじめ、ウィンブルドン国際音楽祭やスリー・クワイア・フェスティバル（音楽祭会長は当時皇太子だったチャールズ3世）など、数多くの国際的な音楽祭に招聘されています。ピアノソロリサイタルや室内楽コンサートを世界各地で開催し、その演奏は英国放送協会（BBC）テレビやラジオ、マルタテレビPBS、セルビア国営テレビRTSなど、主要な放送局でも頻繁に紹介されています。

オーケストラとの共演も非常に多く、これまでに大阪センチュリー交響楽団やオーケストラ･ムジカ･チェレステのほか、ロンドンのオリオン交響楽団、クランブルック交響楽団、ブッシー交響楽団などと共演しています。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、ショパンのピアノ協奏曲第1番、グリーグのピアノ協奏曲、リストのピアノ協奏曲第2番、モーツァルトのピアノ協奏曲といった、主要なピアノ協奏曲を披露し、高い評価を得ています。

録音と現代音楽への貢献

録音活動も積極的に行っており、2010年に東京オペラシティで行われたデビューリサイタルは「感受性に満ちた鮮明な演奏」と絶賛されました。2011年にはピアノソロアルバム『Pilgrimage－ピアノと歩む巡礼の旅』をリリース。その後も、英国を拠点とするレーベルWW Recordsから『SAKURA』、『WW 2.0』、『PRELUDES』といったアルバムを発表しています。特に、ウェールズ出身の作曲家リウェリン・アプ・マーディン氏との共同制作は注目すべき点で、ブライトン・ジャパン・フェスティバルでの彼のピアノ曲の世界初演はその演奏がBBC Radio3で放送され、好評を博しました。これを契機に、アプ・マーディン氏の新作録音を継続的に行い、現代音楽の普及にも貢献しています。

その他の活動

2016年には、スタインウェイ・アンド・サンズ社が開発した最新の自動演奏ピアノシステム「SPIRIO」のレコーディング・アーティストとして契約を結び、音楽とテクノロジーの融合分野でも活躍しています。同年、東京国際ピアノ協会（TIPA）の芸術監督に就任するなど、次世代の音楽家育成や音楽文化の振興にも尽力しています。2017年にはロンドンのSt. John Smith Squareやニューヨークのカーネギー・ホールでリサイタルを開催。2018年にはClassic FMでも演奏が放送されました。2019年にはセルビア出身のピアノデュオ「LPデュオ」と共に東京の駐日セルビア大使館でのコンサートに出演するなど、国際的な文化交流にも積極的です。

井尻愛紗氏は、その幅広い才能と国際的な活動を通じて、現代のクラシック音楽界において独自の地位を確立しています。ロンドンを拠点に、今後さらなる活躍が期待されています。

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