スリー・クワイア・フェスティバル

スリー・クワイア・フェスティバルは、イングランド西部のヘレフォード、グロスター、ウスターという歴史ある三つの都市にある大聖堂を会場として、毎年七月末に持ち回りで開催されるクラシック音楽祭です。世界でも有数の歴史を持つ音楽祭として知られ、特に合唱音楽に重点が置かれています。

この音楽祭の起源は、参加する各大聖堂の聖歌隊による年次集会に遡ります。現在も、各聖歌隊の演奏は一週間にわたるプログラムの中心を占めています。今日の音楽祭では、大規模な合唱作品が音楽祭のために組織された専属合唱団によって演奏されるほか、国内外から著名な合唱団やソリストも多数招聘され、多彩なコンサートが繰り広げられます。

その第一回は1715年にグロスターで開催されたと推定されており、当初は「三つの聖歌隊の年次音楽会合」と呼ばれていました。初期のプログラムは明確に教会音楽が中心で、ヘンリー・パーセルの作品などが定番でした。18世紀に入ると、ヘンデルの「メサイア」をはじめとするオラトリオ作品が重要な位置を占めるようになります。1800年にはハイドンの「天地創造」が初登場し、1840年から約90年間にわたりメンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」がほぼ毎年演奏されるなど、当時の人気作品が盛んに取り上げられました。

19世紀には、ロッシーニ、モーツァルト、ベートーヴェンといった大陸の作曲家の作品も紹介されるようになります。鉄道網の発達は音楽祭への参加者数を大幅に増やし、経済的な繁栄をもたらしました。しかし、大衆化の波は一部の教会関係者からの反発も招き、1870年代には大聖堂での活動のあり方を巡る議論から、外部からの著名な演奏家招聘を控えるなど、規模が一時的に縮小された時期もありました。これに対して市民側の有志が働きかけた結果、音楽祭は再びその活動を活発化させます。

1870年代以降、それまで演奏されることの少なかったバッハの作品が登場し、やがて地元ゆかりの作曲家であるエドワード・エルガーの作品がプログラムの中心を占めるようになります。音楽祭は次第にイギリスの作曲家の作品紹介に力を入れるようになり、世紀末から20世紀にかけてエルガー作品が重要な位置を占め続けました。グロスター大聖堂のオルガニストであったハーバート・サムションは、ハーバート・ハウエルズやジェラルド・フィンジといった同時代のイギリス作曲家の普及に尽力し、彼らの作品が音楽祭で多く初演されています。チャールズ・ヒューバート・パリーの作品も定期的に演奏され、特に「De Profundis」は音楽祭のために委嘱された最初期の作品の一つとして1891年に演奏されました。

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズも音楽祭と深い関わりを持ちました。彼の代表作である「トマス・タリスの主題による幻想曲」は1910年にここで初演され、以降も彼の作品が相次いで紹介されます。これにより、ヴォーン・ウィリアムズはエルガーと並び、音楽祭のレパートリーにおける二つの柱の一つとなりました。その他にも、グスターヴ・ホルスト、アーサー・サリヴァン、ウィリアム・ウォルトン、ベンジャミン・ブリテンといったイギリスの主要な作曲家の作品が音楽祭を彩り、近年ではジョン・マッケイブやジェームズ・マクミランなどの作品も演奏されています。

音楽祭の運営は、チケット収入、寄付、および企業からの協賛金によって支えられています。1995年には、音楽祭を支援する活動家たちのより積極的な関与を促すため、音楽祭協会が設立されました。また、2010年には16歳から25歳までの若手歌手によるユース合唱団が創設され、音楽祭の重要な一員として毎年出演しています。彼らは2012年にはヘレフォードで開催された音楽祭で、ドブリンカ・タバコヴァ作曲の「Centuries of Meditation」を初演しました。2012年からはフィルハーモニア管弦楽団が三年間の公式招聘オーケストラとして参加するなど、外部の著名な演奏家との共演も音楽祭の魅力を高めています。

歴史ある音楽祭ですが、時代ごとの課題にも直面してきました。二度の大戦や新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、当初2015年に予定されていた300回目の開催は、2027年以降に延期されています。また、近年では2019年にベートーヴェンの交響曲第九番終楽章（歓喜の歌）が演奏された際、欧州連合の歌としても用いられていることから、一部の層から反発が生じたと報じられる一幕もありました。

数世紀にわたりイギリスの音楽文化、特に合唱音楽の発展に貢献してきたスリー・クワイア・フェスティバルは、今もなお伝統を守りつつ、新たな才能や作品を紹介し続けています。

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