ウィグモア・ホール

ウィグモア・ホールは、ロンドン中心部に位置する、世界的に有名なコンサートホールです。特にクラシック音楽、中でも器楽、室内楽、声楽のリサイタルの場として知られ、その優れた音響は、演奏家と聴衆双方を魅了し続けています。座席数は552席です。

歴史

ウィグモア・ホールの歴史は、20世紀初頭に遡ります。1901年、ロンドンのウィグモア・ストリートにショールームを構えていたドイツのピアノ製作会社ベヒシュタイン社が、隣接する土地にホールを建設し、「ベヒシュタイン・ホール」と名付けられました。開場記念リサイタルでは、ウジェーヌ・イザイ（ヴァイオリン）とフェルッチョ・ブゾーニ（ピアノ）という、当時を代表する名手が共演しました。

しかし、第一次世界大戦の勃発により、1916年、ホールはベヒシュタイン社の資産としてイギリス政府に接収され、競売にかけられることになります。デベナム百貨店が5万6千ポンドで落札しましたが、これは建設費の10万ポンドを大きく下回る、戦時下の特殊な状況下での廉売でした。1917年、ホールは面している通りの名前にちなんで「ウィグモア・ホール」と改称され、現在に至ります。

開場以来、ウィグモア・ホールはリサイタル・ホールとして、常に世界の頂点に位置づけられてきました。プロコフィエフ、ヒンデミット、アンドレス・セゴビア、ジャクリーヌ・デュ・プレなど、20世紀を代表する数々の演奏家が、この舞台でその才能を輝かせました。

建物

ウィグモア・ホールの建物は、当時の著名なイギリス人建築家、トーマス・エドワード・コルカットによって設計されました。擬ルネサンス様式で建てられており、内装にはアラバスター（雪花石膏）や大理石が贅沢に使用されています。壁面、床面、階段などにふんだんに使われた石材が、ホールに重厚感と優雅さをもたらしています。ホールの平面形は長方形で、特徴的なのは蒲鉾型、あるいは凹面形の天井です。舞台の真上には、4分の1球状の凹面ドーム（キューポラ）が配されており、ジェラルド・モイラの原画による、音楽神をモチーフとした美しい天井画が、訪れる人々を魅了します。

コンサート活動

ウィグモア・ホールでは、年間を通じて数多くのコンサートが開催されています。イギリスの他の多くのホールと同様に、6月中旬から8月にかけてはオフ・シーズンとなりますが、9月のシーズン・イン以降は、ほぼ毎日コンサートやリサイタルが開催されます。平日、休日を問わず、昼夜2部制で利用されることも多く、年間400以上のコンサートが開催されています。平日の昼1時からは、BBCのライブ中継を伴うリサイタルが頻繁に行われており、日曜日の午前11時30分からは、「サンデー・モーニング・コンサート」がほぼ毎週開催されています。日曜日のコンサートは、終了後に無料のシェリー酒、ワイン、コーヒー、軽食が提供され、演奏を終えたばかりのアーティストと歓談できる機会も設けられているため、ロンドン市内および近郊のクラシック音楽愛好家に非常に人気があります。

エイベックス・リサイタル・シリーズ

日本の大手レコード会社であるエイベックス・クラシックス・インターナショナルは、『日本が世界に誇るトップアーティストを音楽界の殿堂ウィグモア・ホールで堪能するリサイタル・シリーズ』と題した企画を2016年にスタートさせました。毎年3人の日本を代表する演奏家がウィグモア・ホールでデビューを飾るというもので、これまでに多くの才能が紹介されています。2016年の第1回にはピアニストの辻井伸行、ヴァイオリニストの諏訪内晶子と庄司紗矢香、2017年の第2回にはピアニストの辻井伸行、ヴァイオリニストの樫本大進と三浦文彰、2018年の第3回にはチェリストの伊藤悠貴が出演しました。また、同年には作曲家、藤倉大のポートレート・リサイタルも開催されました。

ウィグモア・ホールは、その長い歴史と伝統、そして卓越した音響によって、世界中の音楽家と音楽ファンにとって特別な場所であり続けています。

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