井手洋子

井手 洋子

井手 洋子（いで ようこ、1955年 - 2023年8月13日）は、日本の映画監督です。佐賀県鹿島市に生まれました。主にドキュメンタリー映画の分野で活躍し、日本の現代社会や文化、教育などを多角的に記録しました。

経歴

佐賀県立鹿島高等学校を卒業後、1979年に明治学院大学文学部英文学科で学びました。大学卒業後、1985年に著名なドキュメンタリー監督である羽田澄子氏との出会いが、彼女の映像制作キャリアの大きな転機となります。翌1986年から、羽田氏のもとで演出アシスタントとして映像の世界に足を踏み入れました。羽田監督の代表作である『安心して老いるために』（1985年度キネマ旬報文化映画部門ベスト・ワン）や『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』といった重要な作品で助監督を務め、ドキュメンタリー制作の技術と精神を深く学びました。

羽田氏のもとでの経験を積んだ後、井手洋子は独立して自身の作品制作を開始します。初期には、働く人々の意識に焦点を当てた『仕事、君はどう思う？』や、日本の近代建築史に光を当てる『東京のモダニズム建築 学校篇』などを監督しました。これらの作品は、教育や社会の多様な側面を丁寧に描き出す彼女のスタイルを示しています。

代表作と評価

井手洋子のキャリアにおいて、特に国内外で高く評価されたのが、布川事件を題材にしたドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』です。この作品は、長年にわたり無実を訴え続けた桜井昌司氏と杉山卓男氏の姿を追い、日本の司法制度における冤罪の問題に鋭く切り込みました。2010年の公開以降、大きな反響を呼び、平成23年度文化庁映画賞文化記録映画部門大賞、2010年度キネマ旬報ベストテン文化映画部門第1位をはじめ、釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞、毎日映画コンクール ドキュメンタリー映画賞、日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞、ドバイ国際映画祭ベストヒューマンライツ賞など、数々の賞を受賞しました。この映画は、社会的な不正に対する深い洞察と、人間の尊厳を描き出すドキュメンタリーの力を改めて示しました。

『ショージとタカオ』の公開に関連して、2012年4月には、映画の背景や登場人物について深く掘り下げた単行本「ショージとタカオ」が文芸春秋社より刊行され、著者としてもそのメッセージを広く伝えました。

また、教育分野においても顕著な功績を残しています。『スタートライン』（1999年）、『仕事、君はどう思う?』（2005年）、『東京のモダニズム建築 学校篇』（2009年）、そして晩年の作品となった『木版摺更紗 鈴田滋人のわざ』（2023年）は、いずれも教育映画祭文部科学大臣賞を受賞しており、教育分野におけるドキュメンタリーの重要性を広く知らしめました。特に『木版摺更紗 鈴田滋人のわざ』は、伝統工芸の世界を描きながら、2023年度のキネマ旬報ベストテン文化映画部門でも第6位にランクインするなど、高い評価を得ました。

この他にも、子どもたちの居場所づくりをテーマにした『ゆうやけ子どもクラブ!』（2019年製作）など、社会の様々な分野に光を当てる作品を手がけました。彼女の作品は、対象となる人々に寄り添い、その声に耳を傾ける真摯な姿勢が特徴です。

晩年と死去

精力的に作品制作を続けた井手洋子でしたが、2023年8月13日、間質性肺炎のため東京都内の病院で逝去しました。68歳でした。彼女の逝去は、日本のドキュメンタリー映画界にとって大きな損失となりましたが、残された数々の作品は、現代日本が抱える課題や多様な文化、人々の営みを記録した貴重な財産として、今後も多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

主な監督作品

スタートライン（1999年）
仕事、君はどう思う?（2005年）
東京のモダニズム建築 学校篇（2009年）
ショージとタカオ（2010年）
ゆうやけ子どもクラブ!（2019年）
木版摺更紗 鈴田滋人のわざ（2023年）

著書

* 『ショージとタカオ』文芸春秋、2012年

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