歌舞伎役者 片岡仁左衛門

十三代目片岡仁左衛門：その芸の深淵と生涯を映す記録映画

『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』は、1987年から1994年にかけて、歌舞伎界の至宝・十三代目片岡仁左衛門の舞台、芸談、稽古場、そして日常生活を詳細に記録した長編ドキュメンタリー映画です。全6部作、総上映時間10時間46分という圧倒的なスケールで、仁左衛門の芸の深淵と、人間・片岡仁左衛門の生涯を余すことなく映し出しています。

各部の内容

第一部「若鮎の巻」: 1987年、若手歌舞伎俳優の集い「若鮎の会」の公演において、仁左衛門が監修を務めた『鬼一法眼三略巻』と『傾城反魂香』の舞台稽古と演技指導の様子を記録しています。若き才能を育成する仁左衛門の姿が克明に描かれています。

第二部「人と芸の巻 上」: 仁左衛門の代表的な演目である『伊賀越道中双六』、『紙子仕立両面鑑』、『寿曽我対面』などにおける熱演の数々を収めています。特に1987年12月、京都南座顔見世での『寿曽我対面』では、35年連続出演という記録を達成し、表彰された様子も記録されています。

第三部「人と芸の巻 中」: 1988年、歌舞伎座百年記念公演『菅原伝授手習鑑』での仁左衛門の菅丞相役を詳細に捉えています。その圧倒的な存在感と、悲しみを深く湛えた名演は「神品」と称賛されました。仁左衛門の芸の到達点とも言える貴重な記録です。

第四部「人と芸の巻 下」: 「芸談をきく会」での仁左衛門の貴重な芸談に加え、長男の五代目片岡我當、二男の二代目片岡秀太郎、三男の初代片岡孝夫（後の十五代目片岡仁左衛門）、五女の片岡静香、そして妻の片岡喜代子ら家族へのインタビューを通して、人間・片岡仁左衛門の素顔に迫ります。

第五部「孫右衛門の巻」: 1989年歌舞伎座公演『恋飛脚大和往来』の稽古から舞台本番までを記録。仁左衛門演じる孫右衛門を中心に、孝夫（忠兵衛）、雀右衛門（梅川）、我當（八右衛門）ら豪華共演陣の熱演が収められています。

第六部「登仙の巻」: 1991年新装開場した南座での『楼門五三桐』における石川五右衛門役（初役）をはじめ、『江戸絵両国八景』、『元禄忠臣蔵』など、真山青果作品での重厚な演技を収録。さらに「芸談をきく会」での仁左衛門の言葉や、1993年11月南座公演の『鬼一法眼三略巻』、そして最後の舞台となった同年12月『八陣守護城』での演技が収められています。南座で始まった歌舞伎人生は、南座で幕を閉じました。1994年3月26日、仁左衛門は老衰のため90歳でこの世を去ります。

豪華共演陣

この映画には、仁左衛門の家族をはじめ、当代きっての歌舞伎役者たちが多数出演しています。それぞれの部で異なる豪華な顔ぶれが、仁左衛門の芸をさらに輝かせ、作品に深みを与えています。

結論

『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』は、単なる記録映画にとどまらず、歌舞伎という伝統芸能の奥深さ、そして一人の役者の生涯と芸への情熱を伝える、極めて貴重な作品です。日本の伝統文化を愛するすべての人にとって必見のドキュメンタリーと言えるでしょう。

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