井関隆子

井関隆子（いせき たかこ）

井関隆子（1785年7月26日 - 1844年12月10日）は、江戸時代後期に活躍した女性歌人、日記作家、物語作家として知られています。

生涯

井関隆子は、幕臣である庄田安僚の四女として、四谷表大番町（現在の新宿区大京町付近）で生まれました。20歳頃に大番組の松波源右衛門と結婚しますが、23歳で離婚。その後、30歳で納戸組頭の井関親興と再婚しました。井関家は九段坂下（現在の千代田区九段付近）に屋敷を構えていました。文政9年（1826年）に夫と死別してからは、読書や歌作、日記や物語の執筆に専念し、悠々自適の生活を送ったと伝えられています。天保9年（1838年）に『さくら雄が物かたり』、天保11年（1840年）までに『神代のいましめ』を書き上げました。

彼女の代表作である『井関隆子日記』は、天保11年（1840年）1月1日から天保15年（1844年）10月11日まで、約900日間にわたって書き続けられました。そして同年11月1日に、生涯を閉じました。

業績

井関隆子は、日記、物語、歌集など、多彩な作品を残しました。その中でも特に重要な作品を以下に紹介します。

『井関隆子日記』

全12冊からなる自筆本は、昭和女子大学図書館に所蔵されています。天保11年1月1日から天保15年10月までの約900日間の記録であり、天候、地震、四季の変化、出来事、見聞、人物評、社会・政治・学問・文学に関する批評などが詳細に記されています。特に、子の親経や孫の親賢から伝えられる江戸城内の様子は貴重な情報源となっています。江戸時代の日記文学として、また歴史的な資料としても高い価値を持っています。

『さくら雄が物かたり』

6巻1冊からなる自筆本は、東北大学附属図書館・狩野文庫に所蔵されています。『竹取物語』『伊勢物語』『源氏物語』などの平安時代の物語の構成を参考に、当時の仏教界を批判的に描いた作品とされています。

『神代のいましめ』

写本は、昭和女子大学図書館所蔵の鈴木重嶺「翠園叢書」巻26に収録されています。平安時代の散逸物語『隠れ蓑』などから着想を得て、首席老中批判を通して人間の表裏を描いた物語です。

『いなみ野』

吉海直人所蔵の写本『物かたり合』に収録されている物語で、播磨国印南野を舞台としています。作者が愛したススキや尾花への思いが込められています。

『井関隆子長短歌』

歌集。短歌は『秋野の花』に収録されています。また、『井関隆子日記』にも約800首の長歌・短歌が収録されています。

『しのびね』

静嘉堂文庫に所蔵されている写本で、擬古物語です。井関隆子が頭注や傍注を加筆し、書写も彼女自身によるものと推測されています。


その他、桑原やよ子著『宇津保物語考』、蔵田茂樹著『恵美草』、吉田兼好著『徒然草』などの書写本も残されています。

評価

井関隆子の作品は、江戸時代後期の文化や社会を知る上で貴重な資料であり、彼女の文学的な才能を示すものとしても高く評価されています。日記文学、物語文学の研究において、今後も注目されるべき存在と言えるでしょう。

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