鈴木重嶺

鈴木重嶺（すずき しげね）

鈴木重嶺は、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍した人物で、旗本、官僚、そして歌人という多面的な顔を持っていました。その生涯は、激動の時代を背景に、幕府と新政府という二つの体制に仕え、それぞれの立場で重要な役割を果たしました。

家系

鈴木家の祖は、北条氏康に仕えた鈴木重経です。その子、重元は徳川家康に召し抱えられ、武蔵国に領地を与えられました。重嶺の家系は、鉄砲玉薬同心という幕府の役職を代々務め、幕末に至ります。また、国語学者の松本誠は、重嶺の直系の子孫にあたります。

生涯

幕府・明治政府官僚として

重嶺は、中川忠英の家臣であった小幡多門有則の次男として生まれ、鈴木家の養子となりました。養父の死後、家督を継ぎ、幕府の役人としてキャリアをスタートさせます。広敷伊賀者という役職から始まり、その才能を発揮し、徒目付、勘定組頭と順調に昇進していきます。特に、江戸城内での武術見分の際に詠んだ歌が、老中水野忠邦の目に留まり、その後の出世のきっかけとなりました。勘定奉行、槍奉行を経て、最後の佐渡奉行に任命され、諸大夫、兵庫頭と称されるまでになりました。幕府崩壊後は、田安徳川家の家老として、新政府との交渉役を担います。明治維新後、新政府に出仕し、開拓少主典、浜松県参事、相川県参事などを歴任。地方行政にも携わり、相川県では権令にまで昇進しました。その後、官職を辞し、息子に家督を譲りました。晩年には、帝国大学旧事諮問会で幕府の財政や勘定所について詳細な証言を行いました。

歌人として

重嶺は、幕臣時代から国学や和歌を学び、佐渡奉行、相川県参事・権令として佐渡に10年在任中も多くの門弟を育てました。官職を辞してからは、歌人としての活動を本格化させます。『翠園兼当歌』、『雅言解』、『越路廼日記』、『志能夫具佐』などの著作を残し、『早稲田文学』で和歌の名家として紹介されました。また、鶯蛙吟社を創立し、短歌雑誌『詞林』を創刊するなど、歌壇の発展に大きく貢献しました。

交流

重嶺は、勝海舟と親交があり、海舟の日記にもその記述が見られます。また、晩年の歌会には樋口一葉も出席し、指導を受けています。葬儀には、多くの華族や文化人が参列し、その人望の厚さを物語っています。横須賀造船所建設計画の際には、建設推進者の小栗忠順に対して、計画の妥当性を問うなど、鋭い視点も持ち合わせていました。

脚注

鈴木重嶺関係資料は、昭和女子大学図書館に「翠園文庫」として保存されています。墓所は、東京都新宿区大久保の全龍寺にあります。

参考文献

「鈴木重嶺（翠園）伝記研究序説」（深沢秋男『文学研究』92号、平成16年4月）
旧相川町史編纂委員会編『佐渡相川郷土史事典』
『旧事諮問録』旧東京帝国大学史談会編、青蛙房 2007年 ISBN 978-4-7905-0871-7
小川恭一編『寛政譜以降旗本家百科事典』東洋書林、1997年

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