亜洲電視

アジアテレビ（ATV）の歴史：香港テレビのパイオニアからインターネット放送局へ

アジアテレビ（ATV）は、1957年に有料の有線テレビ放送局「麗的映聲（RTV）」として香港で誕生しました。これは中華圏で最初のテレビ局であり、当初はわずか640世帯の契約者からスタートしました。イギリスの民間ラジオ局リディフュージョンが設立したRTVは、その後、1973年に無料のカラー地上波放送に転換し、「麗的電視」と改名します。この転換は、競合する無綫電視（TVB）の無料放送への対応という背景があります。TVBは無線放送で、アンテナさえあれば視聴可能だったため、RTVは視聴者数を大きく減らしていました。

RTVは、番組内容の見直し、バラエティ番組の増加、競馬中継などを強化することで視聴者獲得に努め、1970年代には、視聴契約数は10万を超えました。さらに、1973年には香港電台もテレビ番組の制作を開始し、RTVでも放送されました。しかし、有料放送という仕組みは、TVBとの競争において不利な立場にありました。1975年には佳藝電視（CTV）という第3のテレビ局も開局し、香港のテレビ放送界は激化する視聴率争いに突入しました。CTVは3年後に経営不振で倒産しましたが、そのスタッフや俳優が多くRTVに移籍、RTVの番組内容を豊かにしました。

1980年代に入ると、RTVの経営状況は悪化します。親会社である英国の企業の経営悪化に伴い、RTVはオーストラリア企業に売却され、その後、香港の企業に再売却されました。そして1982年、局名を現在の「亞洲電視（ATV）」に変更、新たなスタートを切ります。この時代には、中国大陸のテレビドラマが香港で初めて放送され、人気を博しました。また、局舎火災による放送機器損傷というアクシデントに見舞われたものの、ライバル局であるTVBの支援を受けながら放送を継続しました。

1990年代には、ATVは全盛期を迎え、TVBの視聴率を上回る番組も誕生します。香港テレビ史に残る番組も多く制作されました。しかし1998年以降は、新たな経営陣の参入により経費削減や番組制作方式の改革が行われ、視聴率は低下、社内意識も悪化し、経営状況の悪化と経営者の交代が繰り返されました。

2000年代に入ると、ATVは長期低迷に陥ります。中国資本のオーナーと、新たなCEOとして加わった王維基（香港電視網絡社長）の間で対立が起こり、王はわずか10日で辞任に追い込まれました。その後、台湾の旺旺グループの蔡衍明が株式を取得、実質的な経営者となりました。蔡は経営権掌握後、社員207人を解雇する一方、中国中央電視台の番組放送権を購入するなど、大胆な経営を行ったことで、社内は混乱を極めました。2009年以降は、中国政府に対して中立の姿勢をとり、香港市民の視点を取り入れた番組制作を強めていくことになります。

2010年代に入ると、再び経営陣の交代が繰り返され、蔡はATVから撤退します。そして、ATVは視聴率の低下、経営不振、様々なスキャンダルに苦しみ、2015年末で期限切れとなる放送免許の更新申請は却下されました。2016年4月1日、ATVは放送を終了しました。59年の歴史に幕を閉じました。放送終了は突然のことで、メッセージもなく、番組が途中で中断される形で終わりました。

放送終了後、ATVは新たな出資者を得て、インターネットテレビ局として再出発しました。かつての放送施設を使用し、かつてATVに所属していたタレントも出演しています。地上波放送とは異なり、有料のインターネット放送として、現在もサービスを続けています。

ATVは、香港のテレビ史において重要な役割を果たした局でした。有料放送から地上波放送への転換、そしてインターネット放送への移行という変遷は、メディア業界の進化を象徴するものであり、その歴史は多くの視聴者に記憶されています。

日本との関わり

ATVは、日本との関わりも深いテレビ局でした。日本語字幕付きの日本の番組の放送、NHKワールドニュースでの英語ニュースの放送、競馬中継など、様々な形で日本と交流していました。特に、日本のアニメやドラマは、香港の視聴者から人気を集めていました。現在でも、ATVのインターネット放送で、日本関連の番組が放送されている可能性があります。また、香港の競馬中継は、ATV放送終了後、TVBが引き継いでいます。

もう一度検索