交戦権

交戦権とは

交戦権とは、国際法および日本国憲法で使用される概念ですが、その厳密な定義は存在しません。一般的には、「戦争を行う権利」または「交戦国・交戦団体に認められる権利」と解釈されています。しかし、この言葉の解釈は多岐にわたり、国際法や各国の憲法によって異なる意味合いを持っています。

交戦権の多様な解釈

交戦権の解釈には、主に以下の3つの説があります。

1. 「戦いを交える権利」説: 文字通り、戦闘を行う権利を指すという解釈です。
2. 「交戦国としての権利」説: 交戦国として国際法上認められる権利全般を指すという解釈です。
3. 「およそ戦争をする権利」説: 戦争を行うための包括的な権利を指すという解釈です。

これらの解釈は、交戦権の概念が曖昧であることを示しています。国際法上でも、交戦権という言葉が明確に定義されているわけではありません。

国際法における交戦権

現代の国際法では、戦争は原則として違法とされています。しかし、戦時国際法においては、交戦する国家の政府には一定の権利と義務が定められています。具体的には、以下のような権利が認められています。

敵戦力の破壊および殺害
中立国の船舶に対する臨検や拿捕
捕虜の抑留
占領地における軍政の実施

これらの権利の中で最も重要なのは、敵国の艦隊や港を封鎖する権利です。ただし、これらの権利は、国家または交戦団体と認められた場合にのみ認められます。反政府勢力などが内乱から交戦団体に移行した場合に限り、交戦権が付与されますが、その明確な規則は確立されていません。

戦争の主体と交戦権

交戦権を「戦争の主体となる立場」と解釈する場合、交戦権を持つのは国および交戦団体です。一般的に、戦争は国家間で行われるものですが、政府転覆を目的とする集団や、分離独立を目指す集団が交戦団体として認められた場合も、国と同様に交戦権が付与されることがあります。

しかし、現在の国際法では、戦争を「戦時国際法が適用される状態」と定義するため、戦争の当事者の資格はあまり重視されません。内戦や占領軍に対する抗議運動などにも戦時国際法が適用されるため、交戦権を「戦争の主体となる立場」と規定する意味は薄れつつあります。

日本国憲法における交戦権

日本国憲法以前

日本国憲法以前には、「他国に対し自由に開戦する権利」として交戦権が解釈されていました。ただし、この権利は国際法規の制限を受けるとされていました。

日本国憲法第9条

日本国憲法第9条第2項後段では、「国の交戦権は、これを認めない」と規定されています。この条文は、「戦争を行う権利」としての交戦権を否定していると解釈されています。しかし、この条文で使用されている「交戦権」という言葉は、国際法上ではほとんど用いられておらず、その定義も不明確です。また、諸外国では「国が戦争を行う権利」という概念は、そもそもほとんど存在しません。

交戦権の解釈をめぐる議論

日本国憲法における「交戦権」の解釈には、以下のような立場があります。

1. 「戦争を行う権利」説: 憲法9条は、日本が戦争を行う権利を放棄したと解釈する立場です。
2. 「交戦法規」説: 交戦権を交戦法規、つまり戦時における軍隊の行動規範と解釈する立場です。この場合、日本は交戦権を放棄したため、自衛隊の交戦規定が不明確になると考えられます。

政府は、「交戦権とは、戦いを交える権利ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称である」としています。また、自衛権とは別の概念であると区別しています。

交戦権と自衛権

防衛省は、交戦権と自衛権を区別しており、自衛権は「わが国を防衛するための必要最小限度の実力を行使する権利」と定義しています。自衛権の行使は、外見上は交戦権の行使と同じく、相手国兵力の殺傷や破壊を伴いますが、交戦権の行使とは異なる観念によるものです。ただし、自衛権の行使は必要最小限度に限定され、相手国領土の占領などは認められません。

交戦権と帝国憲法

交戦権は、宣戦布告から戦争終結までのあらゆる権利をまとめたものであるとする説もあります。この説によれば、日本国憲法には交戦権がないため、講和条約を締結できず、日本国憲法以降に締結された講和条約は、帝国憲法の講和大権によって締結されていると主張されています。

まとめ

交戦権は、国際法や日本国憲法において重要な概念ですが、その定義は曖昧で多義的です。日本国憲法では、国の交戦権が否定されていますが、その解釈をめぐっては様々な議論があります。交戦権は、自衛権とは異なる概念であり、その区別を理解することが重要です。

参考文献

H・ニコルソン『外交』斎藤眞・深谷満雄訳、東京大学出版会、1999年
防衛省編『防衛白書』ぎょうせい、2008年
南出喜久治『占領憲法の正體』国書刊行会、2009年

外部リンク

International Law of War Journal
* 憲法と自衛権 - 防衛省

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