交通政策審議会答申第198号は、
国土交通省の
交通政策審議会が
2016年4月20日に発表した、東京圏における都市鉄道のあり方に関する答申です。この答申は、同審議会の下部組織である「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」が約2年間の検討を重ねた結果をまとめたものです。目標年次は
2030年頃とされており、東京圏の鉄道ネットワークの将来像を示す重要な指針となっています。
答申の背景
この答申は、
2000年に運輸政策審議会が出した答申第18号(以下「第18号答申」)の後継となるものです。第18号答申の目標年次である
2015年を迎え、東京圏の都市鉄道を取り巻く環境が大きく変化したことを受けて、国土交通大臣が
交通政策審議会に諮問したことが、この答申作成のきっかけとなりました。
これまでの鉄道整備により、東京圏の鉄道ネットワークは世界的に見ても高い水準に達していますが、更なる質の向上を目指し、この答申では以下の6つの目標を掲げています。
答申で示された目標
1.
国際競争力の強化に資する都市鉄道
国際都市間競争が激化する中、経済活動を支える交通基盤の強化は不可欠です。具体的には、航空や新幹線との連携強化、国際競争力強化の拠点となる都市開発との連携を推進します。
2. 豊かな国民生活に資する都市鉄道
国民の生活をより豊かにするため、サービス水準の向上を目指します。具体的には、混雑緩和、速達性向上、シームレスな移動の実現を推進します。
3.
まちづくりと連携した持続可能な都市鉄道
人口減少や高齢化が進む中で、質の高いサービスを持続的に提供するためには、都市開発との連携が重要です。具体的には、ユニバーサルデザイン化、郊外部の都市開発との連携強化、環境に配慮したデザインを推進します。
4. 駅空間の質的進化〜次世代ステーションの創造〜
駅を単なる乗降場所ではなく、快適で魅力的な空間へと進化させることを目指します。具体的には、駅を核とした都市マネジメントの推進、バリアフリー化の推進、外国人への対応強化、分かりやすく心地よい空間の形成、駅と周辺地域との一体的な開発を推進します。
5.
信頼と安心の都市鉄道
鉄道の信頼性を高め、利用者が安心して利用できる環境を整備します。具体的には、遅延情報の可視化、鉄道事業者の取り組み促進、利用者との協働、情報提供の拡充を推進します。
6. 災害対策の強力な推進と取組の「見える化」
災害に対する対策を強化し、その取り組みを分かりやすく示すことで、利用者の安心感を高めます。具体的には、災害対策の可視化、ハード・ソフト両面からの強力な災害対策を推進します。
プロジェクト
答申では、これらの目標を達成するための具体的なプロジェクトが、以下の3つの機能別に分類されています。
1.
国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト
2.
地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト
3.
駅空間の質的進化に資するプロジェクト等
第18号答申では、整備対象路線をランク付けしていましたが、本答申ではランク付けは行っていません。代わりに、事業性に課題がある路線についても、前向きな意見が示されています。
事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において事業計画の検討の深度化を図るべき(羽田空港アクセス線)
事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき(新空港線、東京8号線延伸など)
事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき(多摩都市モノレール線延伸)
事業化に向けて(横浜・川崎)両市が協調して、費用負担のあり方や事業主体等を含めた事業計画について、合意形成を進めるべき(横浜3号線延伸)
また、都心部・臨海地域地下鉄構想については、常磐新線(つくばエクスプレス)との一体整備および相互直通運転が提案されています。
その後の検討
2021年には、答申第198号の一部について、
交通政策審議会の下部組織である「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」で追加検討が行われました。その結果、答申第371号として、東京8号線の延伸や都心部・品川地下鉄構想については東京メトロを事業主体とし、完全民営化に影響を与えない範囲での支援を検討することが示されました。都心部・臨海地域地下鉄構想については、引き続き検討課題とされています。
この答申は、東京圏の鉄道ネットワークの発展に向けた重要な指針であり、今後の都市計画や鉄道整備に大きな影響を与えると考えられます。
参考資料
運輸政策審議会答申第7号
運輸政策審議会答申第18号
外部リンク
東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会
東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会