交通権

交通権とは

交通権とは、交通に関する市民の権利を包括的に捉えた概念です。移動の自由、交通手段を選択する自由、交通に関する情報を得る権利などが含まれます。

交通権の歴史

交通権という言葉は、1968年に日本の湯川利和が著書で使用したのが最初とされています。その後、1970年代から日本で交通保障の研究が始まり、1986年には交通権学会が設立されました。フランスでは、1982年に制定された「国内交通基本法」で交通に関する権利が明記されました。

各国の状況

日本

日本では、1980年代に交通権に関する議論が活発化しました。岡並木は「衣食住」に「交」を加えた重要性を提唱し、宇沢弘文は交通サービスを市民の基本的権利としました。また、日比野正己は交通権を日本国憲法第25条（生存権）の一部として捉えました。

しかし、国鉄の分割・民営化をめぐる裁判では、交通権の主張は認められませんでした。その後、交通権の議論は一時沈静化しましたが、2010年には福岡市で生活交通を保障する条例が制定されました。

フランス

フランスでは、「国内交通基本法」によって交通に関する権利が保障されました。この法律では、すべての利用者の移動する権利、交通手段選択の自由、財貨の輸送を委託する権利、交通手段や利用方法に関する情報を受ける権利が規定されています。

2010年には交通法典が施行され、交通に関する権利の規定が体系的に整理されました。

イギリス

イギリスでは、1980年に運輸省内に障害者・高齢者の移動問題を専門的に扱う部局が設置されました。1995年には障害者差別禁止法が成立し、公共交通のバリアフリー化が義務付けられました。

アメリカ

アメリカでは、1973年の「リハビリテーション法」改正で障害者の公民権が確立しました。1986年には、都市大量交通局が大量交通機関のバリアフリー化を義務付け、1990年には「障害を持つアメリカ人法」が制定されました。

ADA法は、公共交通機関に対し、障害者が利用しやすい車両の導入や駅のバリアフリー化、パラトランジット・サービスの提供などを義務付けています。

障害者と交通権

身体障害者は、移動に制約を受けることが多いです。そのため、交通機関におけるバリアフリー化は、障害者の交通権を保障する上で不可欠です。日本では、2000年に交通バリアフリー法が施行され、身体障害者の移動を保障するための整備が進められています。

まとめ

交通権は、市民が生活を営む上で不可欠な移動の自由を保障する重要な権利です。各国で法整備が進められていますが、日本ではまだ明確に定義されていません。交通弱者の移動を保障するために、交通バリアフリー化や公共交通の整備が求められています。

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