交響曲第1番 (デ・メイ)

交響曲第1番『指輪物語』

ヨハン・デ・メイ（Johan de Meij, 1953年 - ）が作曲した《交響曲第1番『指輪物語』》（Symphony No.1 "The Lord of the Rings"）は、イギリスの作家J.R.R.トールキンによる壮大なファンタジー小説『指輪物語』の世界観を音楽で描写した作品です。

概要

この交響曲は、1984年3月から1987年12月にかけて構想、完成されました。ヨハン・デ・メイにとって、この作品は初期における重要な創作活動の成果であり、初めて本格的に取り組んだ大規模な交響作品となりました。当初は、作曲者自身の作品リストで「作品1」と位置付けられていました。

楽曲は吹奏楽のために書かれ、約42分に及ぶ演奏時間を持つ全5楽章で構成されています。それぞれの楽章には、原作に登場する印象的な人物や情景にちなんだタイトルが付されていますが、物語の時系列とは異なる配置となっています。

作品の芸術性は国際的に高く評価され、1989年にはサドラー国際吹奏楽作曲賞を受賞。翌1990年にはオランダの音楽創造基金からも助成金を得るなど、広く認知されるきっかけとなりました。

後には、アメリカの指揮者デイヴィッド・ウォーブルの提案を受けて、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席打楽器奏者で編曲家としても知られるヘンク・デ・フリーヘルに委嘱が行われ、管弦楽版も制作されました。

初演

本作は吹奏楽版、管弦楽版ともに、世界各地で重要な初演が記録されています。

吹奏楽版

世界初演: 1988年3月15日、ベルギー・ブリュッセルのベルギー国営放送ホールにて、ノルベール・ノジーが指揮するベルギー・ギィデ交響吹奏楽団が演奏しました。
オランダ初演: 1988年6月2日、ケルクラーデのローダハルにて、ピエール・キュエイペルスが指揮するオランダ王立陸軍軍楽隊によって演奏されました。
日本初演: 第1楽章のみは1991年4月27日に大阪市の森ノ宮ピロティホールで、全楽章の初演は1992年5月13日に同じく大阪市のザ・シンフォニーホールで行われました。いずれも木村吉宏が指揮し、大阪市音楽団が演奏を担当しました。

管弦楽版

公式世界初演: 作曲者が正式に認定する世界初演は、2001年9月28日から30日にかけて、オランダ・ロッテルダムのデ・ドゥーレンにて開催されました。ディルク・ブロッセが指揮し、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団が演奏しました。
* 日本初演: 2004年2月5日、名古屋市の愛知県芸術劇場コンサートホールにて、大勝秀也が指揮し、名古屋フィルハーモニー交響楽団が演奏しました。

公式初演に先立つ演奏として、2001年2月17日にはアメリカ・ニューヨーク州ロングアイランドで、ジョージ・タケイによるナレーション付きバージョンがデイヴィッド・ウォーブル指揮、ロング・アイランド・フィルハーモニックにより披露されました。また、公式初演より早い2001年9月22日には、ロンドンのゴルダーズ・グリーン劇場で、デイヴィッド・ウォーブル指揮、ロンドン交響楽団によるレコーディングも行われています。

出版

この交響曲の楽譜は、吹奏楽版、管弦楽版ともにアムステル・ミュージック社より出版されています。

吹奏楽版

1988年にアムステル・ミュージック社から出版されました。オランダのデ・ハスケ社や、特定の地域（アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア）ではハル・レナード社を通じて販売されています。2013年には、出版25周年を記念して、自筆譜ファクシミリや関連資料、初演CDが付録した記念フルスコアが登場。さらに2023年には、初歩的なミスの訂正や一部楽器編成の調整を含む改訂版が同社より発行されています。

管弦楽版

2001年にアムステル・ミュージック社から出版されました。こちらはオランダのアルベルセン社から貸し譜の形式で提供されています。

構成

全5楽章は、それぞれが『指輪物語』の特定の側面を描写しています。

第1楽章 魔法使いガンダルフ (Gandalf (The Wizard))

Andante maestoso - Allegro vivace、3/4拍子。物語の重要な導き手、灰色の魔法使いガンダルフを描写します。冒頭のファンファーレと、彼の賢明さや高潔さを表す主題に続き、愛馬飛蔭に跨り疾走する様子が活き活きと描かれます。これらのモチーフは楽曲全体に現れ、作品を統一しています。

第2楽章 エルフの森ロスローリエン (Lothlórien (The Elvenwood))

Lento, rubato、4/4拍子 - Allegretto grazioso、6/8拍子。エルフの住む神秘的な森、ロスローリエンの雰囲気を表現します。遅いテンポの冒頭部では木管楽器が森の静けさや鳥のさえずりを思わせる音色を奏でます。その後、エルフの女王ガラドリエルの鏡に映る幻影が、フロドの心臓の鼓動を思わせるリズムに乗り、変化する様子が描写されます。

第3楽章 ゴクリ（スメアゴル） (Gollum (Sméagol))

Agitato、3/4拍子。一つの指輪に魅入られ、変わり果てたゴクリ（スメアゴル）を描きます。彼の狡猾さや素早い動き、指輪への執着からくる狂気は、特にソプラノサクソフォーンの独奏によって特徴的に表現されます。

第4楽章 暗闇の旅 (Journey in the Dark)

4/4拍子。この楽章は「モリアの坑道」と「カザド＝ドゥムの橋」の二部構成です。旅の仲間がドワーフの廃墟となった地下都市モリアを進む困難な道のりを描写し、坑道に潜むオークやトロル、バルログとの戦闘が繰り広げられます。特に、ガンダルフがバルログと共に奈落へ落ちる悲劇的な場面は印象的です。その後、指導者を失った一行が重い足取りで進む姿が描かれます。

第5楽章 ホビット (Hobbits)

Andante maestoso、3/4拍子 - Allegretto、2/2拍子。平和を愛する小さな種族、ホビットたちに焦点を当てます。彼らの陽気な踊りや、指輪破壊という困難な使命を担う主人公フロドの勇敢さ、気高さを讃える賛歌が奏でられます。曲の結びは、小説の終章と同様に、フロドがビルボやガンダルフらと共にエルフの船で西方の地へと旅立つかのように、静かに幕を閉じます。

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