交響曲第1番 (ブルックナー)

アントン・ブルックナーの交響曲第1番 ハ短調

アントン・ブルックナーの交響曲第1番（ハ短調）は、1866年に完成した彼の最初の交響曲であり、ブルックナー自身が作曲した作品に番号を付けた最初の作品でもあります。実際には、彼の習作である「交響曲ヘ短調」がこの作品の前に作曲されました。「交響曲第0番」として知られる作品は第1番より後に作曲されたものの、ブルックナーはそれを「第2番」と名付けることはしませんでした。

作曲の経緯

この交響曲は1865年に作曲に着手し、1866年に初稿が完成、その後1868年に初演されました。改訂は1891年までに何度か行われ、1877年と1884年にロベルト・ハースとレオポルト・ノヴァークによる「リンツ稿」として知られる改訂版も登場します。最も重要な改訂は1890年から1891年にかけて行われ、全体のスタイルが大きく変化しました。この頃の改訂版は「ウィーン稿」として知られ、ウィーン大学に捧げられています。初演は1868年にブルックナー自身の指揮で行われ、ウィーン稿の初演は1891年12月にハンス・リヒターによって指揮されたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって行われました。

日本での初演と出版の経緯

日本初演は1933年11月22日、ヨーゼフ・ラスカの指揮で宝塚交響楽団が行いました。1893年にウィーン稿に基づく初版が出版され、その後1935年にハース校訂の原典版が出版されました。この版はリンツ稿とウィーン稿の両方をもとにしたもので、後にその存在が明らかになることとなります。その後もブルックナー協会による改訂が続き、1953年にはリンツ稿に基づく原典版が、1979年にはウィーン稿に基づく原典版が出版されました。

楽器編成と演奏時間

この交響曲は、フルートが3本、オーボエ2本、クラリネット2本、ファゴット2本、ホルン4本、トランペット2本、トロンボーン3本、ティンパニ（3個）、弦楽器5部から成ります。演奏時間はウィーン稿が約50分、リンツ稿は約48分です。

楽曲解説

この交響曲は伝統的な4楽章形式で構成されており、既に3つの主題を持つソナタ形式が用いられています。ブルックナーは後にこの曲を「生意気な浮浪児」と評しています。

第1楽章: Allegro

この楽章はハ短調で、4分の4拍子のソナタ形式です。低弦に刻まれた行進曲風のリズムの上に第1主題が奏でられ、さらに展開部では力強い盛り上がりと共に多くの変奏が見られます。再現部では初めの主題が再現され、情熱的なコーダで締めくくられます。

第2楽章: Adagio

変イ長調でのアダージョは、3部形式で非常に叙情的な主題が特徴です。この楽章ではフルートが重要な役割を果たし、他の楽器との対話が魅力的な響きを生み出しています。コーダでは荘厳な響きが印象的です。

第3楽章: Scherzo

ト短調のスケルツォは急速に進行し、元気いっぱいな性格を持っています。トリオ部分で速度が落ち、ホルンによる主題が演奏されるなど、多彩な音楽表現が用いられています。

第4楽章: Finale

終曲は再びハ短調で、速いテンポでの激しい展開が続きます。様々なテーマが織り交ぜられ、最後は力強いクライマックスを迎えます。フィナーレでは全体がハ長調に転調し、大きな満足感をもって終了します。

評価

第1番は、他の交響曲に比べて「リンツ稿」で演奏されることが多い一方、『ウィーン稿』は若々しさを失ったとの評価も受けています。このように、ブルックナーの交響曲第1番は彼の作品の中でも特に重要な位置を占めており、後の作品への影響を強く残しています。

もう一度検索