交響曲第3番 (ハリス)

ロイ・ハリス：交響曲第3番

アメリカの作曲家ロイ・ハリスが1938年に完成させた交響曲第3番は、彼の創作活動における最も有名な作品の一つであり、20世紀のアメリカ音楽を代表する傑作として高く評価されています。この作品は、わずか1楽章で構成されているにもかかわらず、その内部には多様な音楽的要素と感情の変遷が凝縮されています。

記念すべき世界初演は、作品完成翌年の1939年2月24日に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンにて行われました。当時ボストン交響楽団の音楽監督を務めていたセルゲイ・クーセヴィツキーが指揮を執り、楽団の演奏によって聴衆に披露されました。初演は大きな成功を収め、ハリスの名声を確立する決定的な機会となりました。

作品の構造

本作の最も際立った特徴の一つは、全曲が切れ目なく演奏される単一楽章形式を採用している点です。しかしながら、音楽の内容は明確に性格の異なる五つの部分に区分されており、それぞれが異なった雰囲気や音楽的アイデアを展開します。これらの部分はテンポや主題によって区別され、全体として一つの大きな流れを形成しています。

各部分の詳細

単一楽章ながらも多層的な構造を持つこの交響曲は、以下の五つのセクションによって構成されています。

1. 悲劇的 (con moto)

冒頭部分は、チェロ群が力強くも沈痛な主題を提示することによって開始されます。この主題は作品全体の基調となる重厚で悲劇的な雰囲気を決定づけており、聴き手に強い印象を与えます。このセクションでは、全体的に落ち着いたテンポ（con moto）で、深い感情表現が追求されます。

2. 叙情的 (poco piu mosso)

悲劇的な冒頭に続いて現れるこのセクションは、ややテンポを速め（poco piu mosso）、抒情的な色彩を帯びます。ここではヴァイオリンが優美で歌うような第1主題を奏で、音楽に新たな局面をもたらします。さらに、オーボエが対照的なキャラクターを持つ第3主題を歌い上げ、旋律的な魅力を加えます。

3. 田園的 (piu mosso)

さらにテンポが速まる（piu mosso）この部分では、音楽は一転してのどかで牧歌的な雰囲気を纏います。主に木管楽器が中心となり、暖かく穏やかな響きで田園的な主題を提示します。このセクションは、それまでのセクションとは異なる開放的で明るい性格を持ちます。

4. フーガ - 劇的 (Poco piu mosso)

このセクションは、緻密なフーガ形式による構築的な展開から始まります（Poco piu mosso）。複数の声部が複雑に絡み合いながら主題を発展させていく中で、音楽は次第に緊張感を高め、劇的なクライマックスへと向かいます。フーガの厳格さと劇的な表現力が融合した、緊迫感あふれる部分です。

5. 劇的 - 悲劇的 (Con moto)

終結部に近いこのセクションは、再び冒頭に近いテンポ（Con moto）に戻り、力強く劇的な要素が前面に出ます。ここでは金管楽器群が威厳のある主題を奏で、音楽に大きな推進力を与えます。やがて、冒頭の悲劇的な主題がヴァイオリンによって回帰され、全曲を統一する役割を果たします。この主題の再来は、作品全体の構成に循環的な要素をもたらし、壮大なスケールで作品を締めくくります。

楽器編成

この交響曲は、比較的大きな編成のオーケストラのために書かれています。使用される楽器は以下の通りです。

木管楽器: フルート3（うち1人はピッコロ持ち替え）、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2
金管楽器: ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ホルン4、トランペット2（C調）、トロンボーン3、チューバ2
打楽器: ティンパニ、小太鼓、シンバル、トライアングル、木琴、ヴィブラフォン、大太鼓
弦楽器: 弦五部（ヴァイオリン第一、ヴァイオリン第二、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

演奏時間

この交響曲の標準的な演奏時間は、約17分程度です。短いながらも内容が濃密に詰まった作品と言えます。

参考文献

* 『最新名曲解説全集3 交響曲III』（音楽之友社）

この交響曲第3番は、ロイ・ハリスの個性が光る作品であり、アメリカ音楽史において確固たる地位を占めています。その独特な形式と力強い表現は、今日でも多くの聴衆を魅了し続けています。

もう一度検索