交響曲第85番 (ハイドン)

交響曲第85番 変ロ長調 Hob. I:85『王妃』

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1785年頃に作曲した交響曲で、全6曲からなる『パリ交響曲』の4番目にあたります。この曲は『王妃』（仏: La Reine）という愛称で広く知られています。

愛称の由来

『王妃』という愛称は、ハイドン自身がつけたものではありません。初版の楽譜に「フランス王妃」（La Reine de France）と記されたことがきっかけで、この愛称が定着しました。当時、フランス王妃マリー・アントワネットが、ハイドンに『パリ交響曲』の作曲を依頼したオーケストラ団体「コンセール・ド・ラ・オランピック」を気に入っていたこと、そして、その中でも特にこの第85番を愛好していたことが、この愛称の由来とされています。

楽器編成

この交響曲は、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、そして弦五部という編成で演奏されます。

構成

全4楽章で構成されており、演奏時間は約22分です。

第1楽章：アダージョ - ヴィヴァーチェ
変ロ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ） - 4分の3拍子、ソナタ形式。
2分の2拍子のアダージョの序奏部と、4分の3拍子のヴィヴァーチェの主部から成ります。主部の途中には、ハイドンの他の作品からの引用が見られます。具体的には、第60番『うかつ者』の第1楽章と同様に、第45番『告別』からの引用が認められますが、第60番と異なり、この引用が意図的なものなのか、偶然の一致なのかは不明です。
第2楽章：ロマンス：アレグレット
変ホ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、変奏曲形式。
ガヴォットのリズムを持つ変奏曲で、主題はフランスの古いロマンス『優しく若いリゼット』（La gentille et jeune Lisette）から採られています。
第3楽章：メヌエット：アレグレット - トリオ
変ロ長調、4分の3拍子。
第4楽章：フィナーレ：プレスト
変ロ長調、4分の2拍子、ロンド形式とソナタ形式が混合した形式。

この交響曲は、ハイドンの円熟期の作品として、その美しい旋律と構成の妙が際立っています。『王妃』という愛称が示すように、優雅で気品のある雰囲気が特徴です。各楽章はそれぞれ独立した美しさを持ちながらも、全体として調和のとれた構成を成しています。

ハイドンは、この曲を通じて、彼の音楽的な才能と革新的な作曲技法を余すところなく示しました。特に第2楽章のロマンスは、その美しい旋律で多くの人を魅了し、現在でも広く愛されています。

この交響曲は、ハイドンの数々の交響曲の中でも特に人気が高く、コンサートや録音で頻繁に演奏されています。その普遍的な魅力は、時代を超えて聴衆を惹きつけ続けています。

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