交響曲第91番 (ハイドン)

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの手による交響曲第91番 変ホ長調 Hob. I:91は、1788年に完成された作品です。この交響曲は、同時期に作曲された第90番、そして後に広く知られることとなる『オックスフォード』交響曲（第92番）と共に、フランスのドーニ伯爵からの委嘱を受けて書かれました。これらの3曲は一括して『ドーニ交響曲』とも称されることがあります。

作品の特徴と位置づけ

『ドーニ交響曲』の中で、第91番はしばしば他の2曲に比べてやや控えめな存在として捉えられがちです。また、この作品は楽器編成の面でも他の2曲と比較すると小規模であるという特徴を持っています。しかしながら、この交響曲は単に旧来の様式に則ったものではありません。むしろ、ハイドンがこの後に作曲することになる、より大規模で革新的な『ロンドン交響曲集』の様式や発想を予感させる、意欲的な書法が数多く見られます。ハイドン円熟期における作曲技法の探求が、この作品には確かに刻まれています。

古い愛称『T字』

現在ではほとんど使われることはありませんが、過去にはこの交響曲が『T字』（Letter T）という愛称で呼ばれることがありました。この愛称は、第88番が『V字』と呼ばれるのと同様の経緯を持っています。ハイドンの存命中に、ロンドンのフォースター社から出版されたハイドンの交響曲選集第2集（全23曲収録）において、各曲を整理するためにアルファベット一文字（「A」から「W」）が付されていました。この整理番号がそのまま愛称として定着したと考えられています。

楽器編成

この交響曲の演奏に用いられる楽器は以下の通りです。

フルート1
オーボエ2
ファゴット2
ホルン2
* 弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽章構成

全4楽章構成であり、標準的な演奏時間は約26分です。

1. 第1楽章：ラルゴ - アレグロ 変ホ長調、4分の3拍子、ソナタ形式
ハイドンの同時期の交響曲に典型的な、4分の3拍子の緩やかな序奏（ラルゴ）で始まります。この序奏には、続く主部（アレグロ）で提示される主要主題の断片や要素が含まれていると言われています。ソナタ形式による主部では、ハイドンが得意とした対位法的な書法がふんだんに用いられています。特に弦楽器によって奏される第1主題の提示においては顕著であり、その後の展開部や、再現部後の結尾（コーダ）においても、対位法的なテクスチュアが巧みに活用されています。

2. 第2楽章：アンダンテ 変ロ長調、4分の2拍子、変奏曲形式
穏やかな雰囲気を持つ緩徐楽章です。基本的な形式は変奏曲ですが、三部形式のような構成要素も併せ持っています。

3. 第3楽章：メヌエット：ウン・ポコ・アレグロ - トリオ 変ホ長調、4分の3拍子
力強さと優雅さを兼ね備えたメヌエットです。中間部のトリオは、田園舞曲を思わせるような、どこか素朴で可愛らしい雰囲気を持っており、特にファゴットの音が印象的に使われます。このトリオの書法は、ドーニ交響曲のもう一曲である第92番『オックスフォード』のトリオとの関連性が指摘されています。

4. 第4楽章：フィナーレ：ヴィヴァーチェ 変ホ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、自由なソナタ形式
活気に満ちた急速なフィナーレ楽章です。ロンド形式の要素も見られますが、全体としては自由なソナタ形式に近い構造を持っています。巧妙な楽想の展開が繰り広げられ、聴衆を惹きつけます。楽章の締めくくりであるコーダの部分では、第2ヴァイオリンによる第1主題のストレッタ（緊迫感を増すような模倣の反復）が用いられ、楽章全体に劇的な高揚感をもたらします。

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