交響的協奏曲 (プロコフィエフ)

セルゲイ・プロコフィエフが晩年にあたる1951年から1952年にかけて作曲した「チェロと管弦楽のための交響的協奏曲」ホ短調 作品125は、単なる協奏曲の枠を超え、交響曲のような規模と構成を持つ壮大な作品です。この楽曲は、作曲者が1940年に完成させていた「チェロ協奏曲第1番」作品58を基に、大幅な改訂と拡張を施した結果として生まれました。そのため、しばしば「チェロ協奏曲第2番」と呼ばれることもありますが、正式にはこのタイトルが用いられています。

「交響的協奏曲」は、主要な主題や楽章構成の基本的な骨子において、旧作であるチェロ協奏曲第1番の要素を引き継いでいます。しかし、作品全体の規模は約38分と元の楽曲から大きく拡大され、内容も深められています。特に、管弦楽パートは単なる独奏楽器の伴奏にとどまらず、楽曲全体を動かす交響的な役割を強く担っています。このオーケストラの存在感の増大こそが、「交響的協奏曲」という独特な名称が選ばれた理由の一つと考えられます。旧作の素材を再構築しながらも、プロコフィエフは全く新しい、より豊かな音楽世界を創造しました。

この作品は、20世紀を代表する偉大なチェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチに献呈されています。ロストロポーヴィチは、作品の改作構想段階から深く関与し、プロコフィエフの創作活動を献身的に支えました。彼はまた、この「交響的協奏曲」の初演者でもあり、その比類なき技巧と音楽性によって、作品の真価を世界に示しました。

作曲（改作）の経緯は、第二次世界大戦終結後まで遡ります。プロコフィエフは1947年12月、自身のチェロ協奏曲第1番を再演したロストロポーヴィチに、改訂の意向を伝えています。その後、1949年にチェロ・ソナタを完成させたプロコフィエフは、1951年より本格的に改作作業に着手しました。1948年以降、病床にあったプロコフィエフですが、創作への情熱は衰えることなく、古今のチェロ作品を研究しつつ、ロストロポーヴィチとの密接な協力のもとで作曲を進めました。作品は1952年1月に一旦完成しましたが、初演の後にも部分的な改訂が加えられています。

作品の初演は、完成から間もない1952年2月18日にモスクワで行われました。チェロ独奏は献呈を受けたムスティスラフ・ロストロポーヴィチが務め、指揮は世界的に有名なピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテルが執りました。この初演は、リヒテルが公式な場でオーケストラを指揮した唯一の機会として、音楽史上特筆されます。演奏はモスクワ青年交響楽団によって行われました。

楽器編成は以下の通り、充実した規模となっています。
独奏チェロ
管楽器: ピッコロ1、フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2
金管楽器: ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1
打楽器・鍵盤楽器: ティンパニ、チェレスタ（フルートによる代奏も可能）
* 弦楽器: 弦五部（ヴァイオリン第1、第2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽曲は三つの楽章で構成されており、全体の演奏時間は約38分です。楽章の構成と配置は、チェロ協奏曲第1番を踏襲していますが、それぞれが大きく拡張され、内容的にも深化しています。

1. 第1楽章：アンダンテ、ホ短調、4分の2拍子
ゆったりとしたテンポで始まる三部形式の楽章。チェロの叙情的な旋律と劇的な表現が交互に現れます。

2. 第2楽章：アレグロ・ジュスト、イ短調、4分の4拍子
活気に満ちた快速楽章。自由なソナタ形式で書かれており、独奏チェロには高度な技巧が求められます。独奏と管弦楽の緊密な対話と衝突が印象的です。

3. 第3楽章：アンダンテ・コン・モート、ホ長調、2分の3拍子
穏やかながら動きのあるテンポの終楽章。二重変奏曲形式が採用されており、二つの主題に基づいた変奏が展開されます。二つ目の主題には、ベラルーシ民謡の「Бывайце здаровы」（「お達者で」）が使われ、民族的な色彩を加えています。フィナーレに向けて壮大に盛り上がります。

この「交響的協奏曲」は、プロコフィエフの晩年の傑作として、またチェロとオーケストラのための作品の中でも重要なレパートリーとして、現在も広く演奏されています。

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