亥年選挙
亥年選挙（いどしせんきょ）
亥年選挙とは、文字通り亥年に執り行われる日本の二つの主要な選挙、すなわち参議院議員通常選挙と統一地方選挙を併せて指す用語です。この言葉は、特に元朝日新聞記者である石川真澄氏が、亥年の参議院選挙で自由民主党が苦戦しやすい傾向があると指摘した「亥年現象」と関連して広く知られています。
実施される背景
統一地方選挙は4年に一度、参議院議員通常選挙は3年に一度の周期で実施されます。日本国憲法施行後、両選挙が初めて同年に行われたのは1947年でした。以降、それぞれの周期に従って実施された結果、統一地方選挙の周期である4年と参議院議員通常選挙の周期である3年の最小公倍数である12年に一度、「春に統一地方選挙、夏に参議院議員通常選挙」という形で両選挙が同じ年に実施されることとなり、この年が十二支の亥年に当たることが続いています。日本国憲法下の亥年としては、1947年、1959年、1971年、1983年、1995年、2007年、そして2019年が挙げられます。次回は2031年に予定されています。なお、1947年と1983年の亥年においては、衆議院議員総選挙も同時に実施されました。特に1947年は、第1回参議院議員通常選挙（4月20日）のわずか5日後に第23回衆議院議員総選挙（4月25日）が実施されるという、変則的な衆参同時選挙となりました。
石川説（亥年現象）の内容
ジャーナリストの石川真澄氏は、亥年の参議院選挙において自民党が往々にして困難な戦いを強いられるという「亥年現象説」を提唱しました。この説の背景には、以下のようなメカニズムが想定されています。
1. 地方政治家の活動集中: 自治体の首長や地方議会議員といった地方政治家は、春に行われる自身の死活問題ともいえる統一地方選挙に向けて精力的に活動を行います。
2. 夏の参院選への影響: 統一地方選挙が終わると、地方政治家は夏の参議院選挙候補者の応援に割く物理的・精神的なエネルギーが減少します。
3. 自民党の依存構造: 自由民主党は、伝統的にこうした地方の有力者による組織やネットワークを通じた集票システムに大きく依存している政党です。
4. 苦戦へのつながり: そのため、地方有力者の参議院選挙への応援活動が弱まることが、自民党の得票に最も影響を与えやすく、結果として参議院選挙で苦戦を強いられる可能性が高まると考えられています。また、地方組織の活動低下が投票率の低下を招き、組織票を持つ政党に有利に働く可能性も指摘されます。
一方で、公明党や共産党のように、全国的な強固な組織基盤を持つ政党は、地方の有力者に依存する度合いが比較的低いため、亥年選挙においても比較的堅調な議席獲得が見られる傾向がある、とも説では述べられています。
実際の選挙結果との関連
これまでの亥年選挙の結果は、必ずしも石川説通り一貫しているわけではありません。
1995年の第17回参議院議員通常選挙では、投票率が44.50%という戦後最低水準を記録しました。この選挙では、公明党などが参加した新進党が比例代表で比較第一党となるなど、自民党は苦戦を強いられました。この結果は、石川説を補強する事例として挙げられることがあります。
2007年の第21回参議院議員通常選挙では、いわゆる「消えた年金記録問題」が大きな争点となり、自民党は歴史的な大敗を喫しました。この結果を受けて、再び石川説に注目が集まり、実証的な検証が試みられました。ただし、この年は年金問題への関心の高さから、投票率は58.64%と比較的高水準でした。
その12年後にあたる2019年の第25回参議院議員通常選挙でも、亥年選挙として注目されましたが、結果は以前の亥年とは異なる様相を見せました。投票率は48.80%とやや低めではありましたが、自民党は改選議席には届かなかったものの、比較的に安定した勝利を収めたと評価されています。
このように、近年の亥年選挙では、石川説が指摘する自民党の苦戦傾向が必ずしも明確に表れるわけではなくなってきています。
批判的な見解
石川説に対しては、批判的な見解も示されています。政治学者である北海道大学教授の荒木俊夫氏は、1990年の論文で石川説を詳細に検討し、その妥当性に疑問を呈しました。
荒木氏の批判の主な論点は以下の通りです。
都市化説との関連: 石川説は、都市化の進展により自民党の伝統的な支持基盤である農村部の人口が減少し、都市部の支持が弱い自民党が不利になるという「都市化説」を背景に持っているが、1970年代以降の自民党得票率に見られる上下の変動を十分に説明できていない。
都市型選挙区との相関: 有権者の増加に伴い都市型の選挙区が増加したことや、市レベルの議会・首長選挙の結果と自民党の得票率の間に、石川説が想定するような明確な相関関係は見られない。
投票行動の捉え方: 石川説は、自民党の支持層を、地方の有力者などによって組織的に動員される受動的な存在（「社会動員論」）として捉えている傾向が強い。しかし、有権者は価値観の変化や政策争点への関心、あるいは政府・候補者の実績評価（業績評価投票）などに基づいて主体的に投票行動を決定することも多く、石川説はこのような側面を軽視している。
荒木氏は、石川説が有権者の多様な投票動機や選挙結果を左右する様々な要因を十分に考慮していない点を批判しています。現代の選挙における投票行動はより複雑化しており、特定の周期や構造だけで単純に説明できない側面が大きいことを示唆しています。
関連事項
参議院議員通常選挙
統一地方選挙
衆議院議員総選挙
変則衆参同時選挙（特に1947年の例）
投票行動
1区現象、寅年現象（他の周期説の例）
亥年選挙とは、文字通り亥年に執り行われる日本の二つの主要な選挙、すなわち参議院議員通常選挙と統一地方選挙を併せて指す用語です。この言葉は、特に元朝日新聞記者である石川真澄氏が、亥年の参議院選挙で自由民主党が苦戦しやすい傾向があると指摘した「亥年現象」と関連して広く知られています。
実施される背景
統一地方選挙は4年に一度、参議院議員通常選挙は3年に一度の周期で実施されます。日本国憲法施行後、両選挙が初めて同年に行われたのは1947年でした。以降、それぞれの周期に従って実施された結果、統一地方選挙の周期である4年と参議院議員通常選挙の周期である3年の最小公倍数である12年に一度、「春に統一地方選挙、夏に参議院議員通常選挙」という形で両選挙が同じ年に実施されることとなり、この年が十二支の亥年に当たることが続いています。日本国憲法下の亥年としては、1947年、1959年、1971年、1983年、1995年、2007年、そして2019年が挙げられます。次回は2031年に予定されています。なお、1947年と1983年の亥年においては、衆議院議員総選挙も同時に実施されました。特に1947年は、第1回参議院議員通常選挙（4月20日）のわずか5日後に第23回衆議院議員総選挙（4月25日）が実施されるという、変則的な衆参同時選挙となりました。
石川説（亥年現象）の内容
ジャーナリストの石川真澄氏は、亥年の参議院選挙において自民党が往々にして困難な戦いを強いられるという「亥年現象説」を提唱しました。この説の背景には、以下のようなメカニズムが想定されています。
1. 地方政治家の活動集中: 自治体の首長や地方議会議員といった地方政治家は、春に行われる自身の死活問題ともいえる統一地方選挙に向けて精力的に活動を行います。
2. 夏の参院選への影響: 統一地方選挙が終わると、地方政治家は夏の参議院選挙候補者の応援に割く物理的・精神的なエネルギーが減少します。
3. 自民党の依存構造: 自由民主党は、伝統的にこうした地方の有力者による組織やネットワークを通じた集票システムに大きく依存している政党です。
4. 苦戦へのつながり: そのため、地方有力者の参議院選挙への応援活動が弱まることが、自民党の得票に最も影響を与えやすく、結果として参議院選挙で苦戦を強いられる可能性が高まると考えられています。また、地方組織の活動低下が投票率の低下を招き、組織票を持つ政党に有利に働く可能性も指摘されます。
一方で、公明党や共産党のように、全国的な強固な組織基盤を持つ政党は、地方の有力者に依存する度合いが比較的低いため、亥年選挙においても比較的堅調な議席獲得が見られる傾向がある、とも説では述べられています。
実際の選挙結果との関連
これまでの亥年選挙の結果は、必ずしも石川説通り一貫しているわけではありません。
1995年の第17回参議院議員通常選挙では、投票率が44.50%という戦後最低水準を記録しました。この選挙では、公明党などが参加した新進党が比例代表で比較第一党となるなど、自民党は苦戦を強いられました。この結果は、石川説を補強する事例として挙げられることがあります。
2007年の第21回参議院議員通常選挙では、いわゆる「消えた年金記録問題」が大きな争点となり、自民党は歴史的な大敗を喫しました。この結果を受けて、再び石川説に注目が集まり、実証的な検証が試みられました。ただし、この年は年金問題への関心の高さから、投票率は58.64%と比較的高水準でした。
その12年後にあたる2019年の第25回参議院議員通常選挙でも、亥年選挙として注目されましたが、結果は以前の亥年とは異なる様相を見せました。投票率は48.80%とやや低めではありましたが、自民党は改選議席には届かなかったものの、比較的に安定した勝利を収めたと評価されています。
このように、近年の亥年選挙では、石川説が指摘する自民党の苦戦傾向が必ずしも明確に表れるわけではなくなってきています。
批判的な見解
石川説に対しては、批判的な見解も示されています。政治学者である北海道大学教授の荒木俊夫氏は、1990年の論文で石川説を詳細に検討し、その妥当性に疑問を呈しました。
荒木氏の批判の主な論点は以下の通りです。
都市化説との関連: 石川説は、都市化の進展により自民党の伝統的な支持基盤である農村部の人口が減少し、都市部の支持が弱い自民党が不利になるという「都市化説」を背景に持っているが、1970年代以降の自民党得票率に見られる上下の変動を十分に説明できていない。
都市型選挙区との相関: 有権者の増加に伴い都市型の選挙区が増加したことや、市レベルの議会・首長選挙の結果と自民党の得票率の間に、石川説が想定するような明確な相関関係は見られない。
投票行動の捉え方: 石川説は、自民党の支持層を、地方の有力者などによって組織的に動員される受動的な存在（「社会動員論」）として捉えている傾向が強い。しかし、有権者は価値観の変化や政策争点への関心、あるいは政府・候補者の実績評価（業績評価投票）などに基づいて主体的に投票行動を決定することも多く、石川説はこのような側面を軽視している。
荒木氏は、石川説が有権者の多様な投票動機や選挙結果を左右する様々な要因を十分に考慮していない点を批判しています。現代の選挙における投票行動はより複雑化しており、特定の周期や構造だけで単純に説明できない側面が大きいことを示唆しています。
関連事項
参議院議員通常選挙
統一地方選挙
衆議院議員総選挙
変則衆参同時選挙（特に1947年の例）
投票行動
1区現象、寅年現象（他の周期説の例）
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