京極杞陽

京極杞陽：華族出身の俳人が歩んだ道

京極杞陽(1908-1981)は、東京で生まれた俳人です。旧豊岡藩主家系に生まれ、子爵の身分を持つ華族として少年時代を過ごしました。高浜虚子に師事し、俳句の世界で独自の地位を築き上げました。

華麗なる出自と波乱の生涯

1908年、東京で貴族院議員の子として生まれた杞陽は、恵まれた環境の中で育ちました。しかし、関東大震災で家族を失うという大きな悲劇に見舞われます。1923年、子爵位を継承し、自由な境遇を得ましたが、喪失感と孤独感を抱えながら青年時代を過ごします。

学習院在学中に俳句に目覚め、その後、東京帝国大学文学部倫理学科を卒業。ヨーロッパへの遊学を経て、高浜虚子に師事します。1936年、ベルリンで開かれた句会で虚子に才能を認められ、帰国後、『ホトトギス』の同人となります。

宮内省勤務から俳句への専心

宮内省での勤務を経て、1945年に故郷の兵庫県豊岡へ戻ります。戦後の混乱の中で、地元の俳人の要請を受け、俳誌『木兎』を復刊、主宰を務めます。また、貴族院議員を務めた時期もありましたが、貴族院廃止に伴い議員を辞職。以後、俳句に専念する人生を送ります。

独自の作風と評価

杞陽の俳句は、虚子譲りのおおらかさと無造作さに加え、貴族的な美意識やヨーロッパ遊学での体験が融合した、独特の作風を持っています。その作風は、時に読者を置き去りにするほどの奔放さと、心を強く捉える魅力の共存という、激しい落差が特徴です。

代表作には「美しく木の芽の如くつつましく」「香水や時折キツとなる婦人」「都踊はヨーイヤサほゝゑまし」などがあります。これらの句は、繊細な感覚と大胆な表現のバランスがとれており、多くの読者の共感を呼んでいます。

評論家からは、喜びより悲しみ、技術より着眼、意志より諦めが勝っているという評価を受けています。また、震災体験は彼の俳句に大きな影響を与え、客観的な視点で表現するまでには長い歳月を要しました。

晩年とその後

晩年は、虚子没後の喪失感の中で多くの作品を生み出しました。阿波野青畝、中村草田男との「三人展」開催など、精力的に活動。1981年、心不全のため73歳で亡くなりました。没後、『さめぬなり』が遺句集として出版されています。

参考文献

『現代俳句大事典』 三省堂
稲畑汀子編 『ホトトギスの俳人101』 新書館
山田弘子編 『京極杞陽句集 六の花』 ふらんす堂
櫂未知子 『櫂未知子集』 邑書林
衆議院・参議院編『議会制度百年史 - 貴族院・参議院議員名鑑』大蔵省印刷局
『貴族院要覧（丙）』昭和21年12月増訂、貴族院事務局
成瀬正俊編著『昭和俳句文学アルバム13 京極杞陽の世界』 梅里書房
「魅惑の俳人たち2 京極杞陽」『俳句界』2008年2月号、文學の森
栗林浩著『新俳人探訪』「一、京極杞陽―その作品と人」 文學の森

関連情報

虚子記念文学館企画展「京極杞陽」(2014-2015)
NHK[[俳句]]特集「静かなる美 京極杞陽」(2006)
現代俳句データベース 京極杞陽の俳句
* 増殖する俳句歳時記 京極杞陽の句

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