人生劇場 飛車角

映画『人生劇場 飛車角』シリーズについて

『人生劇場 飛車角』は、1963年に公開された東映製作の映画であり、同作を含む全3作からなるシリーズです。監督は沢島忠、主演は鶴田浩二が務めました。このシリーズは、尾崎士郎の小説『人生劇場』を原案とし、特に「残侠篇」に登場する侠客・飛車角に焦点を当てた作品として知られています。

概要

尾崎士郎の小説『人生劇場』は、作者自身をモデルにした主人公・青成瓢吉の人生を描いた長編小説です。この小説は、「青春篇」「愛慾篇」「残侠篇」など、複数の章に分かれています。過去に何度も映画化されてきましたが、飛車角を主人公としたのはこのシリーズが初めてでした。当時の東映プロデューサー・岡田茂は、時代劇に代わる新たな路線として、ヤクザの世界を舞台にした任侠映画を構想し、その第一弾として本作を制作しました。本作は、それまで「人生劇場」といえば瓢吉を主人公とするのが通例だった概念を覆し、ヤクザ映画という新たなジャンルを確立するきっかけとなりました。

シリーズ作品

1. 『人生劇場 飛車角』 (1963年3月16日公開)

シリーズ第1作。大正時代を舞台に、飛車角こと小山角太郎が、義理のために人を殺め、逃亡中に吉良常という博徒に匿われる。吉良常から青成瓢吉の話を聞き、自首した飛車角は、出所後、愛する女性おとよと再会するが、彼女はかつての兄弟分と結ばれていた。飛車角は様々な事件に巻き込まれながら、義理を貫く姿が描かれています。

あらすじ

大正時代、飛車角は遊女のおとよと駆け落ちし、深川に身を隠していた。ある日、飛車角は親分のために敵対する組の親分を殺害する。逃走中に匿われた先で吉良常と出会い、ヤクザの生き方を教えられる。その後、自首して服役し、出所後におとよとの再会を果たすが、彼女は別の男と結ばれていた。様々な出来事を経て、飛車角は義理と人情の間で葛藤しながらも、最後は自らの道を選ぶ。

スタッフ

企画：岡田茂、亀田耕司、吉田達
監督：沢島忠
脚色：直居欽哉（実際は鈴木尚之）
原作：尾崎士郎
撮影：藤井静
音楽：佐藤勝
主題歌：村田英雄「人生劇場」

出演者

飛車角：鶴田浩二
おとよ：佐久間良子
宮川健：高倉健
吉良常：月形龍之介
青成瓢吉：梅宮辰夫

製作の背景

東映は当時、時代劇の不振に悩んでいました。そこで、岡田茂は、それまでの『人生劇場』とは異なる、飛車角を主人公としたヤクザ映画を企画しました。この作品は、東映の任侠路線の先駆けとなり、その後の映画界に大きな影響を与えました。主演の鶴田浩二は、本作で新たな魅力を開花させ、佐久間良子も汚れ役を演じきることで女優としての幅を広げました。また、高倉健も本作をきっかけにスターへの階段を駆け上がっていきました。

2. 『人生劇場 続飛車角』 (1963年5月25日公開)

シリーズ第2作。前作から4年後を舞台に、飛車角は満州に渡り、おとよを探します。アクションシーンを重視した内容で、前作とは異なる展開が繰り広げられます。

あらすじ
前作のラストから数年後、飛車角は満州に渡り、娼婦に身を落としたおとよを捜し求める。しかし、物語の後半では原作とは異なる展開となり、飛車角は命を落とす。

3. 『人生劇場 新飛車角』 (1964年3月1日公開)

シリーズ第3作。前作で死んだ飛車角の意志を継ぐ男を主人公とした物語。時代設定を戦後に移し、新たな展開が描かれています。

あらすじ
前二作とは異なり、飛車角の意志を受け継ぐ男が主人公。舞台は戦後の混乱期に移り、主人公がヤクザの世界で生き抜く姿を描く。

製作の背景
深作欣二監督は、本作の企画を岡田に持ち込むも却下され、笠原和夫が脚本を担当しました。笠原は本作で初めてヤクザ映画の脚本を手がけました。

任侠路線の確立

『人生劇場 飛車角』の大ヒットにより、東映は任侠映画路線を確立しました。この路線は、時代劇に代わる新たなジャンルとして、多くの観客を魅了しました。また、本作は「やくざ映画」という言葉を一般化させ、その後の映画界に大きな影響を与えました。東映は、本作を皮切りに、数多くの任侠映画を制作し、黄金期を築きました。

影響と評価

『人生劇場 飛車角』は、その後の映画界に大きな影響を与えました。ヤクザの世界を舞台にしたドラマは、勧善懲悪の物語として観客に受け入れられ、多くの作品が制作されました。また、本作は鶴田浩二や佐久間良子、高倉健といった俳優たちの人気を不動のものとし、彼らはその後も数々の映画で活躍しました。この映画は、東映の新たな路線を切り開くとともに、日本映画史にその名を刻みました。

補足

本作の成功により、他社も任侠映画の制作に乗り出しました。日活や大映などが、東映に対抗する作品を制作しましたが、東映の独壇場となりました。
本作は、深夜興行の拡大にも貢献しました。
岡田茂は、本作を「不良性感度」の高い映画と位置付け、その後の東映作品にもそのイズムを反映させました。
主演の鶴田浩二は、主題歌を村田英雄にすることを当初反対していましたが、村田と意気投合し、共に東映で男の路線を作ることを誓いました。
脚本は、実際には鈴木尚之が担当しており、直居欽哉は名義貸しでした。

この映画は、単なる娯楽作品としてだけでなく、当時の社会情勢や人々の心理を反映した作品としても評価されています。また、映画制作における新たな試みや、俳優たちの新たな魅力が開花した作品としても、映画史に残る重要な作品です。

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