什一聖堂

什一聖堂：キーウに眠るルーシ最初の石造教会

什一聖堂（じゅういちせいどう、ウクライナ語: Десятинна церква）は、かつてウクライナの首都キーウに存在したキリスト教の教会です。989年から996年にかけて、ルーシのヴォロディーミル聖公によって、古キーウの丘の上に建立されました。この聖堂は、ルーシおよびキーウにおける最初の石造りの教会であったとされています。

什一聖堂の由来

『ルーシ年代記』によれば、ヴォロディーミル聖公は教会の建設のために、自身が所有する金銀の十分の一（什一）を献金しました。その故事にちなんで、教会は「什一聖堂」と名付けられました。

聖堂の構造と内装

現在、什一聖堂の姿を直接知ることはできません。残存しているのは土台の遺構のみであり、ルーシ時代の聖堂がどのようなものであったか、不明な点が多く残されています。しかし、発掘調査によって、聖堂は3つの身廊と6つのドームを持つ、ビザンツ様式の内接十字型の教会であったことがわかっています。内部は豪華なモザイク、壁画、大理石の彫刻で飾られ、床はモザイクと粘板岩を組み合わせた美しいものであったと考えられています。

歴史

キエフ府主教区の中心として

11世紀初頭（989年 - 1037年）にかけて、什一聖堂はコンスタンティノープル総主教庁のキーウ府主教区の中心としての役割を果たしました。しかし、1037年にその中心は聖ソフィア大聖堂へと移ります。

相次ぐ略奪と破壊

12世紀には、ウラジーミル・スーズダリ公国のアンドレイ公爵によるキーウ占領（1169年）や、チェルニーヒウ公国のリューリク公爵による略奪（1203年）など、什一聖堂は度重なる災難に見舞われました。

13世紀には、モンゴル帝国のルーシ侵攻（1240年）によってキーウが陥落した際、什一聖堂は大きな被害を受けました。当時、聖堂は侵略者から人々を守る最後の砦となっていたため、激しい攻撃に晒されたのです。この戦乱以降、什一聖堂は次第に衰退し、荒れ果てていきました。

復興の試みと破壊

17世紀になると、キーウ府主教ペトロー・モヒーラが残された聖堂の壁を修復し、新たな小さな教会を建てました。この修復作業の際、ヴォロディーミル聖公の霊柩と思われる石棺が発見されています。ロシア帝国時代には、古い教会の壁とモヒーラ教会の建物が撤去され、1828年から1842年にかけて新たな大聖堂が建立されました。この聖堂は生神女就寝聖堂と名付けられました。しかし、1928年にソ連政権によって聖堂は廃止され、完全に破壊されてしまいました。

発掘調査と再建への動き

1938年から1939年にかけて、ルーシ時代の教会の遺構を研究するための発掘調査が行われました。この調査では、教会の遺物だけでなく、中世のキーウ大公の宮殿や貴族の屋敷の跡なども発見されています。

ウクライナ独立後には、什一聖堂の再建についての議論が起こりました。しかし、ウクライナに存在する複数の教会の対立や、ウクライナの歴史学者、考古学者の強い反対などにより、議論は停滞しています。2006年には、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会の聖職者が、什一聖堂の遺構の近くに土地を横領し、独断で小さなコンクリートの教会を建てて「什一修道院」と名付けました。この行為はウクライナの学者から強い反発を受け、モスクワ総主教庁からも批判されましたが、ウクライナ政府の対応が不十分であったため、問題は未解決のままとなっています。

什一聖堂は、その栄光と苦難の歴史を通して、キーウ、そしてウクライナの歴史を象徴する存在であり続けています。再建を巡る議論は未だ決着を見ていませんが、その遺構は今もなお、訪れる人々に往時の記憶を呼び起こさせます。

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