キエフ府主教区

キエフ府主教区：歴史と変遷

キエフ府主教区は、現在のウクライナの首都キーウを中心とする地域に、10世紀末に設置された府主教区です。正教会とカトリック教会双方にとって重要な拠点であり、その歴史は多くの変遷を経て現代に至っています。

歴史

10世紀～13世紀前半：起源と発展

キエフ府主教座は、988年にキエフ大公ヴォロディーミルがキリスト教を国教化した際に設置されたと考えられています。13世紀前半までには、キーウ、チェルニーヒウ、ペレヤースラウ、ビールホロド、ヴォロディーミルなど、16もの主教区を擁する広大な管轄区域を抱えていました。コンスタンディヌーポリ総主教庁への所属時期については諸説ありますが、10世紀から11世紀の間とする見方が一般的です。

13世紀後半～14世紀：モンゴルの侵攻と府主教座の移動

モンゴル帝国の侵攻後、1299年にキエフ府主教はキーウからウラジーミルへ府主教座を移転しました。しかし、教会法上の府主教座はあくまでキーウに留まりました。14世紀にリトアニア大公国がキーウを併合すると、大公アルギルダスは府主教区の設置を試みますが、コンスタンディヌーポリ総主教庁からは「リトアニア」「ガリチア」「小ロシア」などの称号しか得られませんでした。その後、1375年にキプリアンが「キエフとリトアニア人の府主教」としてリトアニア占領下の管区を委任され、モスクワの府主教との間で管轄を巡る争いが起こりましたが、1390年にキプリアンが最終的に「キエフと全ルーシの府主教」に任じられ、一旦は統合されました。

15世紀：分裂と教会の再編

1415年、リトアニア大公ヴィタウタスは現地の主教たちと独自の「キエフ府主教」を選出します。これは、モスクワの府主教によるリトアニア支配下の管区への監督が行き届いていないことが理由でした。しかし、この選出は総主教に承認されませんでした。1439年のフェラーラ・フィレンツェ公会議でカトリックと正教会の合同が宣言されると、モスクワはこの正統性を認めず、合同を支持した府主教イシドールを廃位しました。その後、教皇ピウス2世は合同した教会の「府主教」としてグリゴリーを任命し、リトアニアのカジミェシュ4世に受け入れを打診します。カジミェシュは当初合同に反対していましたが、最終的にグリゴリーを受け入れ、「キエフ府主教」として承認しました。

16世紀末～18世紀：ブレスト合同と府主教区の並立

1596年、キエフ府主教をはじめとする主教たちの多くがコンスタンディヌーポリ総主教庁から離れ、ローマ教皇の傘下に入るブレスト合同が成立しました。これにより、正教会のキエフ府主教区はグレコ・カトリックの管区（ウクライナ東方カトリック教会）となりました。しかし、正教会の抵抗も強く、正教会の「キエフ府主教区」も存続することになります。1620年にはエルサレム総主教テオファンがウクライナ・コサックの依頼を受け、キエフの正教会のために新たな聖職者を按手しました。1633年には、ポーランド・リトアニア共和国の国王の許可を得て、コンスタンディヌーポリ総主教が新たなキエフ府主教区を設置し、グレコ・カトリック教会と正教会のキエフ府主教区が並立するようになりました。

近現代：独立と再編

1918年にウクライナ人民共和国が独立を宣言すると、ロシア正教会に属するウクライナ系の聖職者の一部は1919年にウクライナ独立正教会を組織し、独自のキエフ府主教区を設置しました。1990年にはモスクワ総主教庁がロシア正教会に属するキエフ府主教区をウクライナ正教会に改名し、自己管理権を認めました。2018年にはウクライナ正教会・キエフ総主教庁とウクライナ独立正教会が統合し、新生「ウクライナ正教会」が発足しました。

現況

2018年時点では、キエフ府主教区は以下の3つが存在していました。

ウクライナ正教会（2018年設立）
ウクライナ正教会 (モスクワ総主教庁系)（1990年）
* ウクライナ東方カトリック教会（1596年）

また、ラテン典礼のカトリックの管区も別に存在します。

キエフ府主教区は、その長い歴史の中で、政治的、宗教的な影響を受けながら、分裂と統合を繰り返してきました。現代においても、その存在はウクライナの宗教と文化に深く根ざしており、その動向は注目されています。

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