今出川清水

今出川清水と出合清水：広島県府中町の歴史と湧水

広島県安芸郡府中町に位置する今出川清水は、1985年に名水百選に選定された湧水として知られています。府中町指定の名勝にも指定されており、地域住民にとって生活と歴史に深く関わってきた大切な場所です。しかし、この湧水には、長年に渡る名称の取り違えという意外な歴史があります。この記事では、今出川清水と、その近隣にある出合清水について、詳細に解説します。

水源と歴史

今出川清水の水源については、水分峡からの浸透水説と、太田川水系の伏流水説の2つが考えられています。文献史料によると、『安芸府中村社寺堂古跡帖』（1712年）や『安永七年総社八幡差縺覚』（1778年）、『芸藩通志の付図』（1825年）、『芸州厳島図会』（1842年）、『芸州府中荘誌』（1932年）など、古くからその存在が記録されています。かつて周辺には多くの湧水が存在していましたが、農業の衰退とともに消滅し、今出川清水と出合清水は、その貴重な遺構として現在に残されています。2011年には、水分峡の地下水を用いたペットボトル飲料水の販売も開始されるなど、現代においても活用されています。また、近隣の田所明神社にある田所神水も、同じ水源を持つ湧水として飲用可能です。

今出川清水：地域住民の生活と変遷

「東川」という別名を持つ今出川清水は、名水百選選定時から2012年まで「出合清水」と誤って呼ばれていました。古くから生活用水として大切に管理され、石造りの貯水池は飲料水、洗浄水、洗濯水と用途別に区切られています。水天宮が祀られており、今も地域住民によって大切に守られています。

1974年の新聞記事には、水道が普及する1950年頃までは、地域住民が洗顔、洗濯、米とぎなどに清水を利用していた様子が記録されています。ツルツルとした敷石に子供や主婦が転落するエピソードや、おむつをすぐに洗える利便性が語られています。また、1974年頃には、20軒あまりの世帯が共同で月1回の清掃を行っていたそうです。

しかし、周辺部の宅地化や道路整備に伴い、水量が減少。1988年以降、水質検査で何度も大腸菌が検出され、飲用に関する注意喚起が行われるようになりました。2010年以降、名水再生の取り組みが活発化し、大学や地域住民による清掃活動などが行われています。

出合清水：古代からの聖なる水

「出井清水」という別名を持つ出合清水は、今出川清水の南東約120mに位置します。周辺には古代安芸国の国府跡や総社跡、田所屋敷跡（田所明神社）があり、今出川清水と共に聖なる水として扱われていました。かつては『芸州厳島図会』に描かれているほど大きな湧水でしたが、度重なる水害により埋没と発掘を繰り返し、現在のような小さな湧水となっています。

名称の取り違えとその解明

2012年、大学名誉教授の調査により、今出川清水と出合清水の名称が長年取り違えられていたことが判明しました。『芸藩通志の付図』や『芸州厳島図会』、『芸州府中荘誌』などの古文書、周辺住民への聞き取り調査、過去の新聞記事などを総合的に検討した結果、約120m離れた湧水の名称が入れ違っていたことが確認されました。1978年発行の町史に誤って掲載された写真が、この取り違えの要因と考えられています。訂正作業が進められ、町史や案内板の修正が行われました。

交通アクセスと補足情報

今出川清水へのアクセスは、広島駅から広電バスを利用し、「本町四丁目」バス停下車、徒歩5分です。一方、出合清水は市街地の隘路のため、車での進入はできません。近隣には時間貸し駐車場もありません。

参考文献

『安芸府中の文化 第3集』『安芸府中の文化 第6集』（府中町重要文化財保護協会）
『安芸府中町誌 通史編』『安芸府中町誌 資料編』（府中町誌編修委員会）
『芸藩通志 第二巻』（国書刊行会）
『芸州厳島図会 上巻』（宮島町）
『芸州府中荘誌』（默平堂書店）
『錦川鯉の名水賛歌 広島版 VOL.3』（KN企画）
『中国新聞』（中国新聞社）
『神武天皇聖蹟誌』（広島県）
* 広報ふちゅう (府中町)


今出川清水と出合清水は、府中町の歴史と文化を語る上で重要な湧水です。その歴史的背景と、名称の取り違えという興味深いエピソードを知り、訪れる際には、この地の歴史に思いを馳せてみてください。

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