今野浩

今野浩：数理計画法と金融工学のパイオニア、そして教育者

今野浩氏(1940年8月11日-2022年2月21日)は、日本の数理計画法、金融工学の分野において、卓越した研究業績と教育活動で知られる人物でした。スタンフォード大学でPh.D.、東京大学で工学博士号を取得し、東京工業大学名誉教授、中央大学教授などを歴任したそのキャリアは、まさに輝かしいものでした。

研究活動：MADモデルとカーマーカー特許

今野氏の研究活動は、数理計画法、特に資産運用の最適化に大きく貢献しました。彼は平均・絶対偏差モデル(MADモデル)を提唱し、この分野における新たなアプローチを切り開きました。また、線形計画法のアルゴリズムに関する特許、いわゆるカーマーカー特許を巡る訴訟においては、その革新的な技術を擁護する立場を貫き、強い抵抗を示しました。このエピソードは、彼の技術に対する強い信念と、知的財産権保護に対する強い関心の表れとして、広く知られています。

教育活動：多様な分野への貢献

今野氏は教育者としても優れた業績を残しました。筑波大学、東京工業大学、中央大学で教鞭をとり、数多くの学生を育成しました。彼の講義は、高度な専門知識と実践的な応用力、そしてユーモアを交えた親しみやすい語り口で定評があり、学生からの支持も厚かったと言われています。

著述活動：「工学部ヒラノ教授」シリーズ

今野氏は多くの著書を執筆し、それらは専門書のみならず、一般向けの作品も含まれます。特に有名なのは、「工学部ヒラノ教授」シリーズです。このシリーズはフィクションでありながら、工学部の世界や研究活動の現実、大学生活の光と影をリアルに描き出し、多くの読者から共感を集めました。このシリーズは、単なるエンターテインメントとしてだけでなく、工学分野への関心を高める役割も果たしました。

学会活動：指導的役割

学会活動においても、今野氏は中心的な役割を果たしました。国際数理計画法シンポジウム実行委員長、日本知財学会副会長、金融・証券計量・工学学会（JAFEE）会長、日本オペレーションズリサーチ学会（日本OR学会）会長などを歴任し、各分野の発展に貢献しました。

キャリア

今野氏のキャリアは、数学を専門とする父の影響を受け、東京大学理科一類に進学したことから始まりました。森口繁一氏との出会いをきっかけにオペレーションズ・リサーチの道へ進むことを決意し、東京大学工学部応用物理学科数理工学コース（現在の計数工学科）に所属。電力中央研究所、スタンフォード大学、ウィスコンシン大学数学研究所などを経て、筑波大学、東京工業大学、中央大学へと活躍の場を広げました。

人物像

今野氏は「拙速」を信条とし、期限厳守、依頼を引き受けないこと、迅速な成果発表を重視していました。およそ150本の論文を執筆したという成果は、その姿勢の表れでしょう。現実問題へのオペレーションズ・リサーチの手法の適用、そして「金融工学」の訳語として「理財工学」を提唱したことも、彼の独創的な考え方の一端を示しています。

受賞歴と著作

今野氏は、21世紀の日本懸賞論文コンテスト内閣総理大臣賞をはじめ、数々の賞を受賞しました。著作も膨大で、数理計画法、金融工学、知的財産権に関する専門書から、一般読者向けの小説まで、幅広い分野を網羅しています。

今野浩氏の功績は、日本の数理計画法と金融工学の発展に計り知れない貢献をしただけでなく、多くの後進の育成、そして工学分野への関心の高まりに繋がるものでした。彼の業績は、今後も長く記憶され、未来への指針となるでしょう。

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