仙台市の亜炭

仙台市の亜炭：歴史と分布

本稿では、宮城県仙台市における亜炭の分布と歴史について、詳細に解説します。仙台市周辺で発見される亜炭は、約500万年前から約258万年前に形成された仙台層群の一部に含まれています。特に、竜の口層以外の地層から亜炭の産出が確認されています。

亜炭の分布と種類

仙台市で産出する亜炭は、その性質によって大きく二種類に分類できます。一つは彫刻可能な「木質亜炭」で、これは埋れ木細工の材料として利用されました。もう一つは炭化が進んだ「炭質亜炭」で、香炉灰や燃料として活用されていました。また、珪化木も発見されており、観賞用として扱われたり、そのまま放置されたりしていました。

亜炭の採掘は、主に広瀬川中流域の向山層において、幕末以降に行われていました。小規模な炭鉱が多数点在し、家族経営的な形態で採掘が行われていたことが特徴です。これらの炭鉱では、坑道掘りが主流でしたが、支保工が脆弱な「タヌキ掘り」と呼ばれる危険な方法も用いられていたようです。

歴史的背景と利用

古くから歌枕として知られる名取川流域は、埋れ木の産地として有名でした。特に、名取川の埋れ木から作られた香炉灰は、江戸時代には都でも珍重され、最高級品として扱われていたようです。

仙台藩祖・伊達政宗は、香道に造詣が深かったことから、名取川下流域の埋れ木の採掘と埋れ木灰の生産を奨励しました。年貢などの諸役を免除することで、埋れ木の採掘を促進したと伝えられています。

1822年（文政5年）、仙台藩の足軽である山下周吉が竜ノ口渓谷で埋れ木を発見し、食器類の製作を始めました。しかし、竜ノ口渓谷が仙台城の防衛上重要な場所だったため、当初は採掘許可が下りませんでした。それでも、藩の黙認の下、採掘と埋れ木細工の製作は続けられ、次第に仙台土産として人気を博しました。特に、松島など観光地での販売が盛んに行われたようです。

明治時代に入ると、「炭質亜炭」の採掘も盛んになり、木桶風呂やダルマストーブなどの燃料として利用されるようになりました。広瀬川沿いの青葉山、越路山、向山など、仙台市内各地で採掘が行われ、鉱山鉄道を敷設する鉱山も存在しました。太平洋戦争期には、燃料事情の悪化から亜炭の採掘が国家的に重視され、仙台の亜炭生産量は全国3位にまで達しました。昭和30年代頃までは、学校や家庭で広く利用されており、夕暮れ時には街中に亜炭特有の煙と匂いが漂っていたとされています。

しかし、昭和30年代半ば以降、亜炭層の薄さと大量採掘による枯渇、そして石油燃料の普及などにより、亜炭の採掘量は減少の一途を辿りました。1965年頃には「炭質亜炭」の採掘は完全に終了しました。

衰退と現代

亜炭採掘は、小規模な家族経営が中心であり、採掘記録の不足や、危険な採掘方法が原因で、1980年代頃からは、至る所で地盤沈下や陥没といった問題が発生するようになりました。

「木質亜炭」を用いた埋れ木細工は伝統工芸として現在も続けられていますが、熟練の職人はごく僅かであり、埋れ木の備蓄も減少しているため、後継者育成や原材料確保が大きな課題となっています。

一方で、仙台市では、過去に採掘された亜炭や珪化木などの地質学的遺産を保護する取り組みも進められています。霊屋下セコイヤ類化石林などは、市の天然記念物に指定され、保存されています。

仙台市の亜炭の歴史は、地域の産業や生活、エネルギー事情の変化を反映した貴重な歴史であり、現代に残る課題も合わせて、今後の研究や保存が必要不可欠です。

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