仙覚

仙覚（せんがく）

仙覚は、鎌倉時代初期に活躍した天台宗の学僧であり、特に『万葉集』研究における功績で知られています。権律師の地位にありましたが、その生涯には不明な点も多く、謎に包まれた人物です。

生涯

建仁3年（1203年）に生まれたという説が有力ですが、没年は定かではありません。文永9年（1272年）に70歳であったという記録は残っています。出自は東国（常陸国という説も）で、豪族の比企氏の出身であると考えられています。

13歳で『万葉集』の研究を志し、寛元4年（1246年）には鎌倉幕府将軍、藤原頼経の命により『万葉集』の校合に着手します。同年中に最初の校本を作成し、これまで訓点のなかった152首に新たに訓点を加えました。建長5年（1253年）には後嵯峨上皇に校本を献上し、「和歌の浦藻にうずもれて知らざりし玉も残らずみがかれにけり」という歌を贈られています。

弘長元年（1261年）以降は、松殿御本、尚書禅門真観本、基長中納言本、六條家本、忠定御本、左京兆本などの異本を入手し、『万葉集』の校合・校本作成に尽力しました。また、この頃から『万葉集』に関する体系的な注釈作業を開始し、文永3年（1266年）から文永6年（1269年）にかけて『萬葉集註釈』（萬葉集抄、仙覚抄）を完成させました。文永4年（1267年）の奥書には、文永6年に武蔵国比企郡北方麻師宇郷で書写を終えたと記されており、晩年を同地で過ごしたと考えられています。

文永9年（1272年）の記録を最後に、仙覚に関する記述は見当たらなくなります。

業績

仙覚の最大の功績は、万葉集の校本作成と注釈書の編纂です。彼が完成させた『萬葉集註釈』は、明治時代に至るまで『万葉集』の定本として広く用いられました。現代の視点から見ると、注釈や加点には不十分な点もありますが、中世歌学を研究する上で非常に重要な資料であり、その価値は高く評価されています。仙覚が加えた訓点は、特に「新点」と呼ばれています。

歌人としての評価は高くありませんが、『続古今和歌集』以下の勅撰和歌集に「権律師仙覚」として4首が収録されています。

面影のうつらぬときもなかりけり心や花の鏡なるらん（『続古今和歌集』巻第十七雑歌上／花の歌とてよめる）
こやの池のあしまの水に影さえて氷をそふる冬の夜の月（『続拾遺和歌集』巻第八雑秋歌／冬の歌の中に）
秋風は涼しく吹きぬ彦星のむすびし紐は今やとくらん（『新拾遺和歌集』巻第十八雑歌上／秋の歌とて）
花ならば咲かぬ木ずゑもまじらましなべて雪降るみ吉野の山（『新続古今和歌集』巻第十七雑歌上／題しらず）

鎌倉仙覚文庫

神奈川県鎌倉市では、市制80周年を記念して2019年11月1日に「鎌倉仙覚文庫」が開設されました。これは、市中央図書館などが所蔵する古典文学資料をまとめたものです。仙覚が妙本寺で『万葉集』の研究を行ったことにちなんでおり、青山学院大学および二松学舎大学と研究支援のための協定を結んでいます。


仙覚の研究は、現代においてもその名を冠した文庫を通じて、後世に受け継がれています。

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