仙骨

仙骨：骨盤を支える要石

仙骨は、脊椎の最下部に位置する大きな三角形の骨であり、骨盤を形成する上で重要な役割を果たしています。腰椎と尾骨を繋ぎ、骨盤の上方後部で寛骨と結合することで、体幹を安定させ、体重を下肢に伝える役割を担っています。その形状は複雑で、様々な骨や組織と関節を形成し、それぞれが重要な機能を持っています。

仙骨の形成と癒合

仙骨は、元々は5つの仙椎という独立した椎骨で構成されています。胚発生の初期段階では、他の脊椎よりも遅れて形成され始め、誕生時にはまだ完全に癒合していません。その後、思春期から成人期にかけて徐々に癒合が進み、およそ30歳代前半には一つの骨として完全に結合します。この癒合過程は個人差があり、完全に癒合しない場合もあります。

仙骨の形状と構造

仙骨は、前方から見ると凹状、後方から見ると凸状のくさび形をしています。全体として前傾しており、その形状は骨盤腔の形成に大きく関与しています。仙骨は大きく分けて3つの面を持ちます。

前面（骨盤面）： 前面は滑らかで凹状であり、中央には仙椎の痕跡である4本の横線が見られます。この線は、元々の5つの仙椎が癒合した跡です。前面には、仙骨神経や血管の通り道となる前仙骨孔が左右に4つずつ存在します。
後面： 後面は凸状で、中央には正中仙骨稜と呼ばれる隆起があります。これは、元々の仙椎の棘突起が癒合したものです。正中仙骨稜の両側には、筋の付着部となる浅い溝があります。また、後面には後仙骨孔と呼ばれる孔も左右に4つずつ存在し、仙骨神経が通過します。仙骨の後面では、椎弓が完全に癒合しない部分があり、仙骨裂孔と呼ばれる隙間ができる場合があります。
* 側面： 側面の上部は耳状面と呼ばれ、寛骨と関節して仙腸関節を形成します。この関節は、骨盤の安定性に重要な役割を果たしています。側面の下部は狭くなっており、仙骨尖外側角という突起で終わります。

さらに、仙骨には岬角と呼ばれる部位があり、これは仙骨の上縁で骨盤上口の一部を形成しています。この岬角は、産科領域で重要なランドマークとなります。

仙骨には仙骨管という空洞があり、これは脊髄の一部である仙骨神経叢が通る通路となっています。

仙骨の関節

仙骨は、腰椎、尾骨、そして左右の寛骨と関節を形成しています。これらの関節は、それぞれに異なる構造と機能を持ち、骨盤全体の安定性と運動性を担保しています。仙腸関節は、仙骨と寛骨を繋ぐ強固な関節で、体重を支える役割を担っています。

仙骨の語源

仙骨の英語名であるsacrumは、ラテン語のos sacrumに由来し、さらに古代ギリシャ語のἱερόν ὀστέον（hieron osteon）に遡ります。osとosteonは「骨」を意味し、sacrumとhieronは「聖なる」という意味を持ちます。かつては「聖なる骨」という意味で呼ばれていたことから、仙骨の名称の由来には、生殖器の位置、骨の強度、大きさなど、いくつかの説があります。日本語の「仙骨」も、元々は「護神骨」と訳されたものが変化したものです。

まとめ

仙骨は、一見単純な形状に見えますが、その内部構造や周囲との関節関係は非常に複雑です。この複雑な構造は、骨盤の安定性、体重支持、そして神経系の保護という重要な機能を担うためです。仙骨の形状や癒合の程度には個人差があり、その理解は、医療や解剖学の分野において非常に重要です。

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