代々木選手村

代々木選手村（よよぎせんしゅむら）

1964年に東京で開催されたオリンピック競技大会において、各国から集まった選手や関係者が滞在した主要な施設です。東京都渋谷区代々木に位置し、第二次世界大戦終結後に在日米軍の施設として使用されていたワシントンハイツが、日本に全面返還された跡地に建設・整備されました。代々木選手村は、大会に先立つ1964年9月15日に開村し、オリンピック期間を終えた同年11月5日に閉村されました。

建設の背景と経緯

選手村の建設地となった代々木の土地は、かつてアメリカ軍の住宅施設ワシントンハイツでした。1964年の東京オリンピック開催が決定された後、選手村および関連施設の建設候補地として、このワシントンハイツの返還と活用が検討されました。他の候補地として埼玉県朝霞市にあった米軍施設の一部も挙がりましたが、交通の便などを考慮した日本側はワシントンハイツの全面返還を強く希望しました。

アメリカ側との返還交渉は約2年間に及びました。ワシントンハイツの全面返還には日本の移転費用全額負担を条件とし、キャンプ・ドレイクは一時使用のみ認めるというアメリカ側の提示に対し、日本政府はワシントンハイツの全面返還を選択しました。そして1961年10月、この地に選手村と国立屋内総合競技場（現在の国立代々木競技場）を建設することが正式に決定されました。

大会期間中の施設とサービス

選手村では、滞在する数千人の人々に向けて、様々なサービスが提供されました。特に食事の提供は大規模に行われ、毎日約7,000食、期間全体で延べ60万食もの食事が用意されました。選手食堂は、文化的な背景を考慮し、アジア・中東向け、欧米向け、そして女性専用の3箇所に分かれていました。帝国ホテルや日活国際ホテルなどから派遣された一流シェフを含む総勢306名のコックが調理を担当しました。この大規模な食事提供は、当時の冷凍食品技術や調理法の発展にも寄与したとされます。食事の多様性に対応するため、イスラム教徒向けのハラール食や、自国から調理人を帯同した選手団への対応も行われました。期間中に消費された食材は非常に多く、記録によれば牛は340頭、鶏卵は72万個などが消費されました。

選手村の警備は警視庁と陸上自衛隊が共同であたり、安全確保に努めました。村内には選手の生活をサポートする施設として、百貨店である松坂屋の売店が出店し、衣料品や土産物などを販売しました。また、選手村は国際交流の場ともなり、ブルガリア人選手同士が村内で結婚式を挙げたことは、オリンピック史上初の出来事として語り継がれています。

各地に設置された分村

代々木の選手村が主要な拠点でしたが、一部の競技会場は都心から離れていたため、それぞれの会場近くに分村が設けられました。自転車競技は八王子、カヌー競技は相模湖、セーリング競技は大磯、総合馬術競技は軽井沢に分村が設置され、各競技に参加する選手たちが滞在しました。

大会後の活用と現在

東京オリンピックの閉村後、代々木選手村の施設は再活用されました。選手宿舎として新たに建設された4階建ての集合住宅棟は改修を経て、現在「国立オリンピック記念青少年総合センター」として、青少年教育や研修施設として利用されています。選手村の一部であった旧ワシントンハイツの戸建住宅が立ち並んでいたエリアは、広大な都市公園である「代々木公園」として整備されました。この代々木公園内には、旧ワシントンハイツ時代の建物が一戸だけ保存されています。

代々木選手村は、戦後日本の復興と、国際的な祭典を成功させた象徴的な場所であり、その跡地は現在も多くの人々に利用される重要な公共空間となっています。

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