仮道伐虢

仮道伐虢（かどうばつかく）

「仮道伐虢」は、兵法三十六計の第二十四計にあたる戦術です。「道を仮（か）りて虢（かく）を伐（う）つ」と読み下し、敵を欺き、自軍の利益のために利用する戦略を指します。

概要

この計略は、攻略対象を買収や懐柔によって分断し、各個撃破することを目的とします。特に、一旦同盟関係を結び、相手を利用した後に攻め滅ぼすという狡猾な手法を指すことが多いです。この言葉は、晋によって滅ぼされた虞（ぐ）と虢（かく）の故事に由来します。

由来

春秋時代、晋の献公は、隣接する小国である虞と虢を攻め滅ぼしたいと考えていました。しかし、二国が連携すると攻略は困難です。そこで献公は、虞の君主である虞公に、自国の宝である名馬と宝玉を贈ります。そして、「虢を攻めるために、晋軍が虞を通過することを許可してほしい。虞には一切手を出さない」と申し出ました。

虞の臣下である宮之奇は、百里奚と共に、「唇歯輔車（唇破れて歯寒し）」という諺を引用し、「虢は虞の支えであり、虢が滅びれば虞も危ない」と諫めました。しかし、宝に目がくらんだ虞公は、この諫言を聞き入れませんでした。その結果、晋は虞の領土を通過し、虢を滅ぼすことに成功します。数年後（あるいは虢と霍を滅ぼしたその帰路）、晋は虞をも攻め滅ぼしました。献公は「宝玉はそのまま、馬は大きくなって戻ってきた」と喜んだと伝えられています（『春秋左氏伝』僖公五年）。

この故事は、目先の利益に囚われ、隣国の危機を無視することが、自滅を招く結果となることを示唆しています。

事例

戦国時代末期、秦は軍事力による侵攻と並行して、各国の大臣クラスに多額の資金を送り込み、買収工作を行いました。趙においては、奸臣である郭開が秦からの資金を受け取り、名将である李牧を讒言によって陥れ、処刑させました。これにより、趙は自滅への道を歩み始めました。

斉は、親秦派と反秦派の対立によって国論が分裂し、他国が次々と滅ぼされていく中で何の手も打つことができませんでした。最終的に、圧倒的な軍事力を持つ秦に対抗することができず、抵抗することなく滅ぼされました。

秦を利した臣たちのその後については、記録がないか、処刑されたと伝えられています。記録がない場合は、国が滅ぼされる際に共に滅ぼされたと考えられます。敵を金で懐柔することは、外から利用する分には価値がありますが、内部に入り込まれると害にしかなりません。

教訓

「仮道伐虢」の計は、目先の利益に囚われず、長期的な視点を持つことの重要性を示しています。また、敵の甘言に惑わされず、自国の安全保障を最優先に考えるべきであることを教えています。さらに、内部における裏切り行為を防ぐために、常に警戒を怠らないことが重要です。

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