百里奚

百里奚：放浪から宰相へ、そして歴史に名を残す生涯

百里奚は、中国春秋時代の秦の隆盛を支えた名宰相です。五羖大夫という異名で知られ、その生涯は数々の伝説と史実に彩られています。楚または許の国出身とされ、若き日の百里奚は、流浪の旅を続けていました。

放浪の時代

彼はまず斉を目指しますが、飢えで倒れたところを蹇叔（けんしゅく）という人物に助けられます。その後、斉、周、虞と仕官を志しますが、いずれも蹇叔の忠告で断念。しかし、虞では蹇叔の忠告を無視し仕官、やがて虞が滅亡する事態に遭遇してしまいます。これは、蹇叔の予言通りの結果だったと言えるでしょう。

虞の滅亡と秦への道

紀元前655年、晋の献公は虞侯に賂を贈り、同盟国の霍と虢への攻撃の際に虞の領土を通過する許可を求めます。百里奚は宮之奇（くうしき）と共に虞侯に進言しますが聞き入れられず、晋は約束通り霍と虢を滅ぼした後に虞をも襲撃、滅ぼしてしまいます。百里奚は捕虜となり、秦へと連行されます。

五羖大夫

楚で捕虜となった百里奚は、秦の穆公（ぼくこう）の家臣によって発見されます。穆公は百里奚を解放するため、楚の里人に五頭の羊の皮を贈り、彼を秦へと連れ戻しました。このことから、百里奚は「五羖大夫」と呼ばれるようになります。

秦の宰相として

穆公は百里奚と三日三晩に渡り語り合い、彼に国政を委ねました。百里奚は当初それを辞退しますが、穆公の説得を受け、70歳を超えた高齢で宰相に就任します。百里奚は優れた政治手腕を発揮し、周辺諸国を服属させ、秦の版図を拡大。その功績は、後の秦の統一に繋がる礎となりました。

清廉潔白な政治

百里奚は清廉潔白な政治を行い、冬でも外套を着ず、巡察の際には衛兵に武器を持たせませんでした。また、かつて自分を助けた蹇叔を穆公に推薦し、蹇叔は秦の上大夫に任命されます。

最期の謎

穆公32年、秦は鄭国からの内通情報を受け、百里奚の息子である孟明視を大将に遠征させます。百里奚と蹇叔は反対しましたが、穆公は聞き入れず、遠征は敗北に終わります。『史記』蒙恬伝には、百里奚が穆公によって処刑された可能性が示唆されています。

百里奚の死後、秦の人々は深く悲しみ、子供たちは歌声をあげませんでした。彼の死は、秦の人々に大きな喪失感を与えたと言えるでしょう。その功績は、息子である孟明視や親友の蹇叔によって受け継がれ、秦の繁栄に貢献しました。白起のような秦の著名な武将も、百里奚の子孫であるという説もあります。

百里奚を題材にした作品

百里奚の生涯は、小説などにも題材として取り上げられています。宮城谷昌光による『侠骨記』所収の「買われた宰相」はその代表例と言えるでしょう。

まとめ

百里奚は、放浪の身分から秦の宰相となり、その優れた政治手腕で秦の礎を築いた歴史上の人物です。彼の生涯は、困難を乗り越え、理想を追求し続けた、まさに波乱万丈の人生であったと言えるでしょう。その清廉潔白な人となり、そして謎に包まれた最期は、後世に語り継がれるべき、大きな足跡を残したと言えるのではないでしょうか。

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