仲田勝之助

仲田勝之助：日本の美術批評と浮世絵研究における先駆者

仲田勝之助（1886年1月28日-1945年12月25日）は、20世紀日本の美術界に多大な貢献を果たした美術評論家であり、浮世絵研究の第一人者です。東京神田に生まれ、早稲田大学英文科、東京帝国大学美学美術史科と、幅広い教養を身につけました。その後、読売新聞と朝日新聞の記者として活躍し、美術批評や書評を通して日本の美術シーンを彩りました。専門は日本美術と東洋美術で、その深い造詣は多くの著作、論文に結実しています。

新聞記者から美術評論家へ

大学卒業後、新聞記者としてのキャリアをスタートさせました。その鋭い観察眼と洗練された文章力、そして美術への深い愛情は、彼の批評を高く評価する多くの読者を獲得することになります。新聞記事を通して、一般大衆に美術への理解を深めてもらうことに貢献しました。特に、日本美術、東洋美術に関する評論は、当時の美術界に大きな影響を与えました。

写楽研究における貢献

仲田勝之助の研究活動の中で、最も注目すべきは東洲斎写楽に関するものです。1925年、単独のテーマとして写楽を取り扱った画期的な単行本『写楽』（アルス美術叢書第8編）を出版しました。この著作は、写楽を「レンブラントやベラスケスに比肩すべき世界的肖像画家」として紹介し、写楽研究に新たな地平を切り開きました。

しかし、この評価が後年、ドイツ人研究者ユリウス・クルトの著作からの誤引用であると指摘されることになります。この誤解は、出典の検証不足から生じた伝聞に基づく事実誤認であり、研究上の注意深さが求められることを示しています。

また、仲田は写楽の正体を阿波の能役者春藤又左衛門とする説が、しばしば彼の著作として紹介されています。しかし、実際には仲田自身は、地方紙の記事を引用した上で、その説に懐疑的な見解を示していました。この誤解は、情報伝達の過程における歪みを端的に示す事例と言えるでしょう。

多岐にわたる著作活動

仲田勝之助の著作は、『写楽』以外にも数多く存在します。1911年の『漫画と訳文』（広文堂）、1916年の『露西亜の革命と文学』（東雲堂書店）、1941年の岩波文庫版『浮世絵類考』（編校）、1943年の『浮世絵襍記』（二見書房）、そして没後出版された1950年の『絵本の研究』（美術出版社）など、その分野は多岐に渡ります。これらの著作は、現在でも美術史研究において重要な資料として活用されています。

結語

仲田勝之助は、新聞記者としての経験を活かし、一般大衆にも分かりやすい美術批評を展開しました。彼の研究は、写楽研究に大きな足跡を残しただけでなく、日本の美術史研究全体に貢献しました。ただし、その研究の中には誤解や誤用された部分も存在することから、一次資料を重視し、情報伝達における正確性を再確認する必要性を改めて認識させられます。彼の業績は、美術史研究における正確さと客観性の重要性を示す貴重な教訓となっています。彼の多様な著作は、これからも美術研究者や愛好家に啓発を与え続けるでしょう。

もう一度検索