任務 (松本清張)

短編小説『任務』の概念

松本清張による短編小説『任務』は、1955年12月に『文學界』に初めて掲載され、その後2022年11月に短編集として再刊されました。本作は、衛生兵として戦場に赴任し、厳しい環境における人間ドラマを描いた作品です。

あらすじ

主人公の末田は、34歳での招集を受け、朝鮮に派遣されることになります。彼は衛生兵として龍山の兵営に配属され、医務室で勤務することになるのですが、衛生兵という立場は兵士たちから見下される存在でした。医務室にいると、上等兵でさえ衛生兵を「ヨーチン」と呼ぶことはなく、逆に彼らは見下げた目で衛生兵を見る傾向がありました。ただ、末田は書類整理が得意だったため、森野軍医の信頼を受けることになりました。しかし、森野軍医の診断はいい加減であり、末田自身もその実態に気づいていました。

医務室には新たに須田という軍医見習士官が現れ、彼は受診者を丁寧に診察することに情熱を注ぎます。見習いの彼に対して、周囲の衛生兵たちは初めは興味を持っていましたが、次第に彼の丁寧さに対して苛立ちを覚え、憎悪へと変わっていきます。須田は、新米としての緊張感を抱えながらも、仕事をこなすうちに次第に落ち着きを失い、精神的に圧迫されていきます。さらに彼は、一ヶ月も経たないうちに軍医としての実務に慣れていく姿を見せ始めます。

そんな中、同じ班の三上二等兵が医務室に訪れます。彼は35歳でありながら、老けた印象を与える兵士です。須田は彼の風邪を軽視しますが、末田は三上が本当に体調を崩しているのではないかと心配になり、自分の班に戻ります。三上は熱があると感じられ、彼は末田に対して冷静になってほしいと訴えます。末田は、自分が見下していた三上からのその言葉に不快感を覚えるのです。

三上は急性肺炎にかかっており、症状が悪化し意識を失います。彼は隣の患者と一緒に数を数え始め、末田はその様子を見て思わず笑ってしまいます。しかし、その夜、三上は息を引き取ります。末田は彼をかわいそうに思うものの、その看護から解放されたことの安心感の方が強く感じられるのでした。

エピソード

本作について、日本近代文学研究者の栗坪良樹は、患者二人の奇妙な合唱を落語のパロディのように描写していると評しています。また、作家の半藤一利は、患者が死んだ時に初めて任務を果たしたと感じることに理解を示しながら、病人が物のように扱われる衛生兵の姿に皮肉を見出しています。さらに、小森陽一は、本作を「濃密な心理小説」と評価し、前年に発表された『赤いくじ』との対比を示しています。このように『任務』は、厳しい戦時の状況の中での人間関係や内面的葛藤に焦点を当てた作品となっています。

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