伊井蓉峰

伊井蓉峰：新派劇を支えた名優の生涯

伊井蓉峰（本名：伊井申三郎）は、日本の新派劇を代表する俳優の一人で、明治4年（1871年）に東京・日本橋で生まれました。彼の出自は写真家の家庭であり、父は油問屋を営んでいました。幼少期から多様な学問に触れた後、父の死をきっかけに三井銀行で働くことになりますが、やがて演劇の世界に魅了され、俳優としての道を歩み始めました。

演劇界への足跡

伊井は明治24年（1891年）、川上音二郎の「書生芝居」に参加し、初めて舞台に立ちます。しかし、川上との関係が悪化し、間もなく自身の劇団を立ち上げることを決意しました。依田学海の支援を受け、浅草の吾妻座にて男女合同改良演劇「済美館」を設立し、同じく俳優たちと共に新たな演劇の形を模索し続けました。

明治27年（1894年）には、市村座で伊佐水演劇を結成し、近松門左衛門の作品からシェイクスピアの翻訳劇まで、幅広いジャンルの演目を上演し、観客から高い評価を得ます。彼は明治35年（1902年）に拠点を中洲真砂座に移し、演劇界における地位を確立していきました。さらに、明治42年（1909年）には東京座で「新派大合同公演」の座長を務め、後の新派劇の時代を先導する立場を確立しました。

映画への進出

昭和3年（1928年）、マキノ省三監督のもとで映画『忠魂義烈・實録忠臣蔵』に大石内蔵之助役として出演しました。この作品は、伊井にとって重要な転機となりましたが、彼の傲慢な態度や自己中心的な演技は、スタッフや共演者に不安をもたらし、最終的には影響を及ぼす結果となりました。特に「六方」を踏む場面では、伊井の振舞いが周囲を困惑させました。

乱高下したキャリア

その後、昭和5年（1930年）には本国劇を結成しますが、こちらも期待された成功には至らず、不運な展開となります。昭和7年（1932年）には、慢性腎臓病と動脈硬化により、東京劇場での出演中に倒れ、同年8月に亡くなりました。彼の死は、劇界にとって大きな損失とされ、その影響は今なお語り継がれています。

個性と影響

伊井蓉峰の芸名は「いい容貌」という言葉をもじったもので、彼の美しい姿は多くの観客に愛されました。「新派の大統領」と称されるほどの名優でありながら、時にその名声に驕った行動が周囲に影響を与えることもありました。彼の人生や業績は、演劇の黎明期を支えた重要な人物として評価され、後の世代に多くのそして多様な影響を与えました。

まとめ

伊井蓉峰は、演技において新しい風を吹き込んだ革新的な俳優の一人です。その独自のスタイルや強烈な個性は、彼が存在した時代の演劇界に大きな影響を与え、彼の名を残す要因となるでしょう。彼の交友関係や負の側面も含め、今後もその業績は演劇史の中で語り継がれていくことは間違いありません。

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