川上音二郎

川上音二郎：明治演劇界の風雲児、その生涯と功績

川上音二郎（1864年2月8日 - 1911年11月11日）は、明治時代に活躍した興行師、芸術家であり、「オッペケペー節」で一世を風靡し、新派劇の創始者として日本の演劇史に名を刻んでいます。福岡藩出身の彼は、幼少期から学問に励む一方で、反骨精神を持ち、様々な経験を経て演劇の世界へと足を踏み入れました。

波乱万丈な青年時代

音二郎は、福岡藩士の家に生まれましたが、継母との不和から家を飛び出し、大阪、東京へと渡り歩きました。東京では、無銭飲食で追われる日々を送る中で、福澤諭吉との出会いを果たし、慶應義塾で学ぶ機会を得ます。その後、警視庁の巡査や自由党の壮士など、様々な職を転々としましたが、いずれも長続きせず、最終的に演劇の世界へと身を投じることになります。

「オッペケペー節」の大流行と新派劇の創始

1880年代から、「自由童子」と名乗り、政府批判の演説や新聞発行などの活動を行っていた音二郎は、1887年に「改良演劇」と銘打って一座を率い、興行を開始しました。落語家の桂文之助に入門し、浮世亭◯◯と名乗った後、世相を風刺した『オッペケペー節』を寄席で歌い、これが大評判となります。日清戦争の時期には、その人気は最高潮に達し、社会現象となりました。

音二郎は、書生や壮士ら素人を集めた「書生芝居」「壮士芝居」と呼ばれる一座を率い、従来の歌舞伎とは異なる、現代劇の要素を取り入れた新しい演劇を創造しました。これが後に「新派劇」と呼ばれるようになり、旧劇（歌舞伎）をしのぐ人気を博しました。

海外公演と翻訳劇への挑戦

1894年、音二郎は、人気芸者の貞奴と結婚。その後、日清戦争が始まると、いち早く戦争劇を上演し、大きな反響を呼びました。1899年からは、貞奴と共にアメリカ、ヨーロッパへと渡り、海外公演を行いました。彼の演劇は、異国情緒あふれる日本の文化として、欧米の人々から熱狂的に迎えられました。

また、音二郎は、日本の演劇界に新たな風を吹き込むため、海外の戯曲の翻訳にも積極的に取り組みました。特に、シェイクスピアの『オセロ』『ハムレット』『ヴェニスの商人』などを日本版に翻案し、セリフ劇として上演したことは、日本の近代演劇の発展に大きく貢献しました。

晩年と死後の影響

1908年、大阪に洋風劇場・帝国座を開場し、後進の育成にも力を注ぎました。1911年、急性腹膜炎により47歳で死去。彼の遺志により、博多駅近くの承天寺に葬られました。

川上音二郎の死後も、彼の功績は忘れられることなく、妻である貞奴を描いたNHK大河ドラマ『春の波涛』が放送されたり、彼が欧米興行を行った際に録音したオッペケペー節のレコードが発見されたりするなど、その影響は現代にも及んでいます。福岡市博多区には音二郎の銅像が建てられ、彼の偉業を今に伝えています。

川上音二郎は、日本の演劇界に革命をもたらした先駆者であり、その革新的な精神と行動力は、多くの人々に感銘を与え続けています。彼は単なる「新派の祖」ではなく、「日本の近代演劇の祖」として、その名を永遠に刻まれるでしょう。

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