伊奈忠順

伊奈忠順：江戸時代の卓越した行政官と災害復興の功績

伊奈忠順は、江戸時代中期に活躍した関東郡代です。1712年没。関東郡代伊奈忠常の次男として生まれ、兄は忠篤です。伊奈氏は代々、幕府の代官として土木事業に携わっており、忠順もその家業を継ぎました。妻は折井正辰の娘で、嫡男は忠辰、養子に忠逵（伊奈貞長の次男）を迎えました。

はじめは稲葉正篤の養子となりましたが、兄の忠篤が亡くなると、兄の後を継ぎ、関東郡代の地位と武蔵国赤山（現在の埼玉県川口市赤山）4000石の領地を相続しました。

輝かしい功績：治水事業と架橋工事

忠順は、数々の重要な公共事業を成功させました。その代表的なものとして、以下の事業が挙げられます。

元禄11年（1698年）：深川永代橋の架橋工事
5代将軍徳川綱吉の50歳の誕生日を記念して建設された、重要な橋梁事業です。
元禄13年（1700年）：深川埋め立て工事
江戸の都市基盤整備に貢献した大規模な土木事業です。
宝永元年（1704年）：江戸本所堤防の修築工事
洪水対策として不可欠な堤防の強化工事を行いました。
宝永2年（1705年）：浅草川治水工事
水害の常襲地帯であった浅草川の治水に尽力しました。

宝永の大噴火と災害復興への貢献

宝永4年（1707年）11月、富士山は620年ぶりの大噴火を起こしました。この噴火は、広範囲にわたる甚大な被害をもたらしました。特に、小田原藩は領地の6割が火山灰に埋まり、江戸にも多量の火山灰が降り積もったと記録されています。

忠順は、この災害に対し「砂除川浚奉行」として幕府から派遣され、災害対策の最高責任者として活躍しました。酒匂川の砂除けや堤防修復に尽力しました。しかし、被害の最も大きかった地域への支援は不足しており、多くの村が放棄され、飢餓に苦しむ人々が続出していました。

忠順は、酒匂川の改修工事に被災農民を雇用し、生活の安定と農地の回復に尽力しました。土壌改良にも取り組みました。しかし、事業半ばの宝永4年（1707年）に亡くなりました。忠順の墓は、現在の埼玉県川口市の源長寺にあります。戒名は嶺頂院殿松誉泰運哲翁大居士です。

地元での信仰と顕彰

忠順の功績を称え、被災農民たちは慶応3年（1867年）に祠を建立し、後に伊奈神社を建立しました。現在も、伊奈神社には忠順の像が立っています。大正時代には、忠順の功績を称えて従五位が贈られました。

また、記録はないものの、駿東郡御厨地方には、忠順が独断で幕府の米倉を開き、飢民に米を分配したという伝承が残されています。

伊奈忠順を題材とした作品

新田次郎の小説『怒る富士』は、忠順を主人公に、宝永の大噴火を描いた作品です。

結び

伊奈忠順は、卓越した行政能力と災害への対応能力を備えた人物でした。彼の功績は、現在も地元の人々の記憶に深く刻まれ、彼の名前は、災害復興のシンボルとして語り継がれています。彼の業績は、現代社会においても学ぶべき多くの教訓を与えてくれます。

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