伊熊博一

伊熊 博一（いぐま ひろかず）氏は、1948年5月29日に愛知県で生を受け、プロ野球選手として活躍した後、2010年10月31日に惜しまれつつ62歳でその生涯を終えました。ポジションは外野手で、左投げ左打ち。現役引退後は中日新聞社の職員を務め、晩年には関連企業の経営にも携わりました。

彼の球歴は、まず地元愛知の刈谷市立刈谷南中学校を卒業後、野球の名門である中京商業高校（現在の愛知県立中京大中京高校）で華開きました。高校2年生だった1965年には、一塁手として春の選抜高等学校野球大会に出場。チームは順調に勝ち進みましたが、2回戦で藤田平選手を擁する市和歌山商業高校の前に敗退しました。

翌1966年、高校3年生となった伊熊氏は、チームの主軸として躍動します。同期のエース加藤英夫投手を中心に強力なチームを形成し、自身は右翼手として守備を固め、打撃では四番打者を任されました。この年、中京商業高校は春・夏の甲子園大会で見事に連覇という快挙を成し遂げます。これは、1962年に達成した作新学院高校に次ぐ、史上2校目の偉業でした。春の選抜大会では、準決勝で宇部商業高校との激戦を延長15回サヨナラ勝ちで制し、決勝では土佐高校の上岡誠二投手の粘り強い投球に苦しみながらも、1対0で完封勝利を収め、全国の頂点に立ちました。夏の選手権大会でも勢いは止まらず、準決勝で荒武康博選手が中心の報徳学園高校を下し、決勝では松山商業高校のエース西本明和投手を攻略して3対1で勝利し、史上2校目の春夏連覇を達成しました。当時のチームには、加藤英夫投手のほか、捕手の矢沢正氏、三塁手の平林二郎氏といった同期の好選手が揃っていました。また、1学年下には控え捕手の大島忠一氏、2学年下には控え投手の水谷則博氏がいました。

高校での目覚ましい活躍が評価され、1966年の第2次ドラフト会議において、地元のプロ野球球団である中日ドラゴンズから1位で指名を受け、プロへの扉を開きました。入団1年目の1967年には、プロ野球の若手選手の登竜門であるジュニアオールスターゲームに出場。さらに同年10月には、一軍公式戦に左翼手として2試合に先発出場する機会を得ました。1969年のシーズン最終戦では、一番打者として打線を牽引する役割も担いました。地元出身であること、そして高校時代に見せた強肩俊足と卓越した打撃センスから、将来の中日を背負う選手として大きな期待が寄せられていました。

しかし、プロの世界の壁は厚く、高校時代のような輝きを放つことは容易ではありませんでした。一軍に定着することは叶わず、期待に応える活躍を見せることができないまま、1973年のシーズン終了をもって現役を引退することを決断しました。プロ時代の背番号は、入団当初の1967年から1971年まで「25」をつけ、その後1972年と1973年には「41」に変更しています。

プロ野球選手としてのキャリアを終えた後、伊熊氏は新たな道に進みました。中日新聞社に入社し、職員として勤務。晩年には同社の客員となり、さらに愛知県一宮市を拠点に、中日新聞系列の折込広告を取り扱う会社の経営に携わるなど、多方面で活躍しました。

2010年10月31日午後0時27分、肺がんのため、愛知県名古屋市中区の病院で息を引き取りました。享年62歳でした。伊熊博一氏は、高校野球史にその名を刻む偉業を成し遂げた選手として記憶されています。

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