伊藤宣広

伊藤宣広（いとうのぶひろ）氏は、1977年にこの世に生を受けた日本の経済学者です。現在、群馬県に位置する高崎経済大学において、経済学部の教授として教鞭を執りながら、精力的に研究活動を展開しています。氏の研究の中心は、経済学という学問の歴史、特に20世紀初頭に隆盛を誇ったケンブリッジ学派や、その流れを汲むジョン・メイナード・ケインズの画期的な経済理論、とりわけマクロ経済分析に深く根差しています。

伊藤氏の学究生活は、その出身地である三重県から始まりました。国内有数の学府である京都大学に進学し、2000年に同大学の経済学部を卒業しました。さらなる知見を求め、同大学院の経済学研究科に進み、博士後期課程で研鑽を積みました。そして、2005年に「20世紀初頭のケンブリッジ学派におけるマクロ経済分析の展開」というテーマで博士（経済学）の学位を取得しました。この時の研究は、後の氏の経済学研究における重要な方向性を定めるものとなりました。

学位取得後、伊藤氏は大学という学術の場でそのキャリアを築き上げていきます。最初の任地は立教大学で、2005年に経済学部の助手としてその第一歩を踏み出しました。その後、2007年には助教に昇任。そして2008年には高崎経済大学へと活躍の場を移し、講師として新たなスタートを切りました。高崎経済大学では、その教育・研究実績が認められ、2011年には准教授に昇任。さらにその後、2017年には経済学部の教授へと昇格し、現在に至るまで、多くの学生の指導にあたりながら、自身の研究を深めています。

経済学者としての主要な業績として、経済学史、特にケンブリッジ学派の研究に関する数々の著作が挙げられます。2006年には中央公論新社から中公新書として『現代経済学の誕生―ケンブリッジ学派の系譜』を上梓しました。これは、現代経済学がどのように形成されてきたのかを、ケンブリッジ学派の流れの中に位置づけて論じたものです。続く2007年には、ミネルヴァ書房から『ケンブリッジ学派のマクロ経済分析―マーシャル・ピグー・ロバートソン』を刊行。ここでは、ケンブリッジ学派を代表する経済学者であるアルフレッド・マーシャル、アーサー・セシル・ピグー、デニス・ロバートソンといった巨匠たちのマクロ経済に関する思想を、丹念に読み解き、その重要性を現代に問いかけています。さらに、2016年には現代書館から刊行された「いま読む！名著」シリーズの一冊として、『投機は経済を安定させるのか？―ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』を読み直す』を著しました。この著作では、現代経済において重要な意味を持つ投機行動と経済の安定性というテーマを、ケインズの不朽の名著である『一般理論』の視点から再検討しています。これらの著作を通じて、伊藤氏は経済学史における重要な古典的理論が、現代の経済問題を考える上でもいかに示唆に富むかを提示しています。

研究活動に加え、海外の重要な経済学文献を日本語に翻訳し、日本の経済学研究の発展に貢献する活動も行っています。2014年には、ミネルヴァ書房からアルフレッド・マーシャルの著作『クールヘッド&ウォームハート』を翻訳出版しました。これは、経済学における分析的な思考（クールヘッド）と倫理的な配慮（ウォームハート）のバランスの重要性を示唆する、示唆に富む一冊です。また、2015年には、M.C.マルクッツオによるケンブリッジにおける経済学の伝統に関する論文集『市場の失敗との闘い』の日本語訳（ポスト・ケインジアン叢書）にも、他の研究者と共同で携わっています。これらの翻訳活動は、海外で生まれた優れた経済学の成果を国内に紹介し、日本の研究者や学生が最新あるいは古典的な知見に触れる機会を広げています。

伊藤宣広氏の研究は、過去の経済学の遺産を現代の視点から見直し、そこから現代経済が抱える課題に対する洞察を得ようとする点に特徴があります。経済学史という視点から、マクロ経済分析の基礎とその発展過程を深く理解することは、変動が大きく予測困難な現代経済の仕組みを解明する上で不可欠です。高崎経済大学での教育活動と共に、研究成果の発表を通じて、経済学の発展に貢献しています。経済学史の研究を通じて、理論の深い理解と応用を目指すその活動は、多くの研究者や学生にとって重要な示唆を与えるものです。

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