伊藤悌三

伊藤悌三：人物画に生涯を捧げた洋画家

1907年、浅草に生まれた伊藤悌三は、隅田川で汽船会社を経営する父と写真家である江崎礼二の娘との間に生まれた三男でした。独協中学校時代から画家を志し、1927年、岡田三郎助に師事。その後、東京美術学校西洋画科に進学します。

1933年には第14回帝展に入選。以後、帝展に毎年入選を果たし、画壇でその存在感を示しました。1941年には第4回新文展に出品した作品「少憩」で岡田賞を受賞、翌年には無鑑査作家となりました。

第二次世界大戦中は、興亜院や陸軍報道部からの依頼を受け、中国や南方各地で作品を制作。戦後は日展や光風会で活動し、浅井閑右衛門、南政善らとともに新樹会を創立しましたが、1952年以降は団体を離れ、無所属作家として個展を中心に活動しました。

伊藤悌三は、師である岡田三郎助の影響を強く受け、人物画家としての人生を歩みます。特に裸婦画を得意とし、1972年からは毎年ヨーロッパに渡欧。スペインの女性を数多く描いたことが知られています。その作品には、モデルの持つ個性と、スペイン独特の情熱的な雰囲気が融合し、見る者を魅了する独特の表現が特徴的です。

彼の作品には、単なる人物描写にとどまらず、モデルの魂や内面を深く捉えようとする姿勢が見て取れます。緻密な描写と、大胆な色彩感覚を併せ持つ彼の画風は、多くの鑑賞家を惹きつけました。

伊藤悌三は画家としての活動以外に、著書や挿絵も手掛けていました。1967年には『人物画を始める人へ』を、1983年には『我が心の隅田川』を出版。また、大岡昇平の『野火』、グリム童話集、安岡章太郎の『利根川』など、数々の書籍の挿絵も手がけました。これらの活動は、彼の多様な才能と、表現への飽くなき探求心を物語っています。

伊藤悌三の長男は日展工芸作家の伊藤萌木、次男は東京大学名誉教授の文化人類学者伊藤亜人、三男は木版画家の伊藤卓美と、いずれも芸術や学問の道を歩む人物を育てたことも特筆すべき点でしょう。

1998年、90歳で生涯を閉じました。彼の残した作品と、その人生は、後世の芸術家たちに多大な影響を与え続けていると言えるでしょう。彼の作品は、単なる絵画という枠を超え、時代と人間の深層を映し出す鏡と言えるのかもしれません。数多くの作品とともに、彼の名は、日本の美術史に燦然と輝く一星として永遠に輝き続けることでしょう。

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