伊藤生更

伊藤生更について

伊藤生更（いとう せいこう）は、1884年に現在の山梨県韮崎市に生まれ、その生涯を通じて日本の短歌界に多大な影響を与えた歌人である。本名は伊藤基胤であり、姉妹のうち一人は著名な童謡詩人である権藤花代（権藤はなよ）という。1906年に山梨師範学校を卒業後、教育者としての道を歩むが、彼の真の情熱は詩作にあった。

生更は、もともと山梨師範学校及びその附属学校で教鞭を取りながら、浅川伯教という友人と共に学校生活を支え合っていた。彼は1908年に甲府市へ転居し、1913年には29歳という若さで校長に就任するなど、教育者としても成功を収めた。しかし、彼の人生に大きな転機が訪れたのは1920年のことであった。チフスにかかり、生死をさまよったことで、彼の人生観は根本的に変わった。

1923年に山梨師範学校の嘱託として教壇に復帰した生更は、教科書に掲載されていた斎藤茂吉の歌に感銘を受け、短歌作りを本格的に始める。この時から彼は「生更」という雅号を用いるようになり、その意味は「甦る」という概念を表すものであった。1926年に短歌結社「アララギ」へ入会し、以後は茂吉を師として短歌に専念した。

生更の短歌の特色は、自然を題材としたものが多く、写生的かつ素朴な表現であった。平明でありながらも温もりと強さを兼ね備えた彼の作品は、多くの人々に感銘を与えた。また、彼は数多くの後進の指導にも尽力し、多くの優れた歌人を育て上げた。彼が主宰した短歌結社「美知思波」は、1935年に創刊され、会員は山梨県を越え、近隣県や台湾などにも広がった。

「美知思波」は戦後も活動を続け、1984年には発足30周年を迎え、会員は517名を数えるほどに成長した。その後も多くの作品を世に送り出し、シンポジウムや朗読会を通じて、彼の理念や教えは引き継がれていった。しかし、1972年に88歳で生更が他界した後、「美知思波」は徐々に会員数を減らし、2018年には終刊に至ってしまった。

それでも、生更の存在は短歌界において決して忘れ去られることはない。彼の作品は、山梨県の短歌史において重要な位置を占めており、今もなお多くの研究や鑑賞が行われ続けている。「美知思波」の名は生更の死後も多くの歌人に引き継がれ、彼の短歌の精神は生き続けている。

生更が著した歌集には、『草谷』や『柴山』、『山雲』、『甲斐の国』などがあり、これらは彼の歌人としての成熟した時期を展示している。また、教育者としての側面も強調された『茂吉秀歌の鑑賞』や『作歌道』といった著書も残している。短歌界における生更の足跡は、今もなお多くの人々に影響を与え続け、その作品は山梨県短歌界の基盤を作ったという意義を持つ。

伊藤生更はその生涯にわたって短歌に情熱を傾け、その作品は今なお読み継がれ、長きにわたる影響を与え続けている。

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